第811話 エルサレム問題

「あれ?こんな平和な町なの?」


ガザから三日ほどかけて見えてきた城塞都市エルサレムに入ると、意外なほど平和。


多種民族が争いなく暮らしていた。


「ふぉっほほほほほ、いかがされましたかな、常陸様?」


「ムリタファス殿、ここって三つの宗教が覇権を握ろうとしているのでは?」


「ふぉっほほほほほ、どこでそのような事をお聞きになったのかは知りませんが、ここではその様な争い事はありませんよ」


と、ムリタファスは言うと佳代ちゃんが俺の袖を引張って首を軽く振りながら合図をしてきた。


「ふぉっほほほほほ、今日はもう遅いので宿で一晩疲れを取られてから明日案内しますじゃ」


と、ムリタファスが案内する宿に入った。


「なんだ、常陸、拍子抜けするほど平和な町ではないか?」


と、織田信長も言うと佳代ちゃんが、


「そのことなんですけど、これを見て下さい」


と、電子辞書を開いてエルサレム問題を見せてくれた。


「んと、・・・・・・第一次世界大戦でイギリス介入が発端で争いとなる・・・・・・それまでは他宗教弾圧なし?あれ?」


教科書で習い、ニュースでちょくちょく見ていたエルサレム問題を改めて調べると意外な真実が書いてあった。


「で、でね、私のいた未来線って、真琴君が志し半で死んでしまった未来なの。真琴君が死んでしまって再びヨーロッパが争いになり、イギリスが覇権を握った世界。だけど、今は真琴君が生きている」


「あっ、そうなると覇権は日本?」


「ん~、この未来線ではその確率が高そうだけどね。今、現段階で言えばここは、オスマン帝国の支配下で、いたって平和の地なのよ」


「ぬははははははははははははっ、そう言うことか。西欧諸国は自分たちの価値観を押しつけるが、常陸やオスマン帝国はそうではないな。そうなると、この辞書のような未来にはならない可能性が高い」


織田信長、出会った当初から未来線複数の枝分れをよく理解している。


「なら、逆を言えば俺はここには介入しないで良いって事?」


「常陸、むしろほったらかしにしておけば良かろう。力ある者が一つの勢力に加担するから争いが起きるのではないか?」


「そういう事だと私も思うの」


「あぁぁぁぁ、なんか今、どうしようかずっと悩んでいた俺が一気に馬鹿みたいに思えてくる」


「肩肘張りすぎだぞ、常陸。もう、お前はこれからは生き続けることを考える時に来ているのだぞ。生き続け常陸が要石となり、自分たちの価値観を押しつける者を見張るくらいで良いのだ。常陸が力を入れている農業改革が進み食に困らない世界、未来、そうなると争いは必然的に減るのではないか?」


「信長様・・・・・・」


「誰しも争いなど好まぬ。この地が三つの宗教の聖地と言うのがわかって住む者なら、他者を尊重して住むのではないか?」


「そうですね。そこに政治を持ち込まねば争いの火種にはならない」


平成時代、他国であるのに多くの票を持つ、一つの宗教の顔色伺いをしてしまい介入してしまうことで争いが大きくなる。

それは自国を滅ぼしかねない諸刃の剣になっている。

エルサレム問題はその象徴たる物だろう。


「この地に対しては日本は軍事、政治介入しません。ここの土地の人々がお互いに尊重しあって暮らす事を望み見守ります。ただ町の発展、拡大を望むなら灌漑土木建築技術提供を惜しまずする。と、言う事にいたします」


「うむ、それが良かろう」


どうやって介入し、どうやって平和を維持しようか考えていたエルサレム、その答えは意外にも不介入と言う答えが出た。

ここを支配するオスマン帝国が一つの宗教、一つの民族に肩入れしないよう皇帝アメフトスに手紙を書いた。

ここはすべての者にとって神に祈りを捧げる場所。

血で汚したくないと願うのは、ごくごく普通の事だ。

政治介入さえしなければ、それは続く。

そう信じよう。

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