第776話 黄金の棺

 1614年2月15日


 正月休みを挟んで、続く発掘作業も佳境となっていた。


控えの間の壁を壊し、奥の玄室に入った。


すると大きな石棺がある。


「なんだ、黄金ではないではないか」


と、織田信長は落胆の声を出した。


「この石棺を開けると、黄金の棺があるんですよ。黄金の価値も高いですが、それに描かれた装飾画が見事なんです。おい、この石棺をあける。狭い部屋だが櫓を組んで上げるぞ」


と、指示を出す。


うちの人足達は前田慶次と真田幸村が選んだだけあって、金堀衆だけでなく、大工などもおり、そのくらいの物はすぐに組み立て上げた。


櫓に滑車を付け、ロープで石棺の蓋に引っかける。


「畏くも高天原におわします、夜の世界を統べる月夜見命の大神の御力をお貸し下さるよう、かしこくかしこくお願い申し上げます。ファラオ、ツタンカーメンの御霊を鎮めたもうこと何卒お聞き届け下さいますよう、重ね重ねお願い申し上げます」


今まで、ほとんど鹿島神宮の神の武甕雷男神の力をお借りしてきたが、出羽三山で修行の経験で、月山神社の月夜見命のお力を借りることも出来る。

呪いを払うと言うわけではないが、魂が荒ぶる事を事前に止める。


棺に向かって皆で手を合わせてから蓋を持ち上げるためのロープを上げた。


「慎重にゆっくりだぞ、ゆっくり、ゆっくりゆっくり」


織田信長でさえその棺が見たいのか、自ら松明を持って照らし、作業の手助けをしていた。


少しずつ上がる石の蓋・・・・・・、織田信長が照らす松明の明かりが、反射し部屋が少しずつ黄金色に輝いた。


「・・・・・・常陸、ここまでにしよう」


「え?信長様?」


「隙間から見える黄金の棺、これで十分だ。これ以上眠りを遮る必要もなかろう。そして、常陸が言うように、これは文化的価値が高い。今、開けるより行く年も先に開けたほうが良いではないか?」


織田信長は好奇心旺盛、そして第六天魔王と恐れられる人物だが、元来真面目な男だ。


「黄金の棺、見たい者はこの隙間から敬畏を以て見せていただけ、三日後、再び閉じる」


と、作業にあたっていた者皆に、閲覧の機会を与え石蓋を閉じる事を決めた。

俺が欲しい称号『ツタンカーメンの墓発見者』を獲た今、それをわざわざ出す必要はない。

さらに言えば、MRIやCTなどの解析が出来るようになるまで眠っていただいたほうが良いのだ。

ツタンカーメンのミイラには、エジプトの歴史をつなぐ大事な糸、証拠がある。

それは専門家に任せるのが良い。


「え~マコ~全部見たかったのに~」


と、お江は残念がっていたが、


「秘仏と同じですね。未公開だからこそ神秘の力を持つ。このファラオもまた、神と一緒、この地を守っていただきましょう」


と、茶々。


「そうね。金銀財宝なんていくらでも買えるのだし、棺まで引っ張り出す必要はないですわね。副葬品は盗賊にあらされそうだから、手元で保存したほうが良さそうだけど、この棺はね~人集めないと開けられないから、すぐに見つかってしまうだろうから、このままにして置きましょう」


と、お初。


「御主人様、日本も、このような文化はあるのですか?」


と、桜子は聞いてきた。


「そうだね、棺を黄金で作るようなことをするほど金もないし、技術もないから作れなかったけど、古墳の内部は壁画の装飾が凄いんだよ。ただし、塗料が弱いから開けるのは厳しいかな。茨城にも虎塚古墳っていうのがあって、玄室の壁画が凄いんだよ」


茨城県ひたちなか市にある虎塚古墳、毎年、春と秋に一般公開される。

俺も一度見たことがあるが、連続三角文、環状文、幾何学文が綺麗に残っていた。

なんとも幻想的な絵。


「へぇ~常陸国にも、あるのですね」


「まあ、副葬品の傷みが激しいのと、掘り返しても保存が厳しいから、掘り起こさないけどね」


・・・・・・それは、見たことがあるから掘り起こす為の興味が薄いのが真実だが。


「御主人様、ミイラって本当に漢方薬として効能あるんですか?」


小滝は薬としてのほうに興味があるようだった。


「んな、ミイラって、元々人間だからね。人間干したって薬にはならないから。ミイラは脂肪分が化学変化して石鹸として使われたこともあるらしいけど、石鹸大量生産出来るんだから、必要ないでしょ」


「それもそうですわね。静かな眠りにお戻り下さい。南無阿弥陀仏」


と、小滝はツタンカーメンの棺に向かって唱えていた。


三日後、石棺の蓋を静かに閉じ、玄室と控えの間の壁を作り直し墓を閉じた。


そして、じゃんがら念仏踊りを奉納、ムリタファスに手配して貰ったエジプトのシャーマンにも儀式を執り行って貰い、墓の入り口も閉じた。


入り口には、頑丈な扉を作るよう人足衆の中にいる大工に頼み・・・・・・って、失敗だった。


その人足は左甚五郎の弟子で、扉にはファラオの守護神バステトが猫耳萌美少女化し、墓の守護神アヌビスが犬耳萌美少女化し、彫刻されたのは後に来るときに気がつくのだった。


ムリタファスに頼み、王家の墓一帯をオスマン帝国皇帝アメフトスと、大日本合藩帝国皇帝織田信長の名、そして、『考古学者・ツタンカーメン墓発見者・黒坂真琴』の名で保護地区とし常に見回りの兵士を置くこことした。


他に眠る多くの墓の盗掘も避けるために。

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