第721話 森力丸

「御大将、お帰りなさい」


と、挨拶に来たのは、下野に領地を持つ大名でありながらも家臣である、森力丸だった。


「もう、お互い大名なんだから、御大将も可笑しな気もするが」


「御大将は御大将です。なら、左大臣様とお呼びしますか?」


「はははっ、それだとなんか他人行儀だな」


「でしょ?」


と、お互いに笑った。


「坊丸の件は、俺の注意不足だった。申し訳ない」


「御大将が謝ることではありません。兄は武人として、そして上様の先方として無事役目を勤めたのですから、戦いで死ねるは本望」


「そう言って貰えると気が楽になる」


と、答える。


「御大将、しばらくはこちらで?」


「いや、すぐに戻る。気がかりな事があるからな」


「戦ですか?」


「いや、側室の出産だ」


と、言うと力丸は目を細めて、うわ~と言いたそうに見てきた。


「力丸も励め」


「はいはい、御大将のようには出来ませんけどね」


と、笑う。


「私も世界を見たいのですが・・・・・・」


「そうだな、もう少し頼む。信琴が完全に独り立ちするまで」


「はい、私の息子もまだまだ若輩ですから、隠居出来るようになれば行きとうございます」


「その時は世界を案内する」


「はっ、楽しみにしています」


力丸はこの世界に来てからの長い付き合い。

家臣でありながらも良き友人のように気兼ねなく話せる。

その夜は酒を酌み交わして世界の話をして飲み明かした。

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