第686話  磯原佳代2

1611年9月27日


私はこの日を鹿島の造船所で迎えた。


真琴君に会いに行くために試験的に造られていた潜水艦の完成に熱中している。


そんな日々の中、鹿島にも強い揺れが届いた。


「この地震では津波は起きません。揺れの被害を確認して作業に戻って下さい」


と、船大工に指示をすると


「しかし、殿様の命で揺れが起きたらとにかく高台に逃げろ。と、命じられているんだ」


「真琴君の命令は絶対的なのはわかる。だけど、この地震は会津、福島の内陸の震源だから津波は来ないの。作業に戻って早く船を完成させましょう」


「そんな事は信じられねえべ、殿様の命は絶対だ。大工達を束ねる頭として避難させる」


そう行ってきたのは国友茂光だった。


「わからない人ね。大丈夫だって言ったら大丈夫なのよ。とにかく船を早く完成させて、私をヨーロッパに連れて行ってよ」


「それは出来ねえ。もし津波が来て大工達を死なせたら殿様に顔向け出来ねえんだ。みんな高台に逃げっと」


私の未知の知識で技術改革を一気に進めたせいか、職人気質のこの頭とは少々の隔たりが出来ていた。

真琴君はどうやって束ねていたのよ。

作業の手を休めて逃げようとする大工衆の前に真琴君にうり二つの若い青年が現れた。


「頭、この地震は大丈夫だと父上様からも書を預かっておりますから、磯原殿の言うとおりにして下さい」


父上様?私がその青年の顔を見つめていると、


「お初にお目にかかります。黒坂真琴の長男で龍之介信琴と申します。母上様から手伝うようにとの命がありましたので下総から来た次第で。今日の地震は聞いてはいませんが、磯原殿が言うなら間違いないでしょうから」


と、最後は小声で言ってきた。


「若い時の真琴君そっくり・・・・・・」


と、凝視してしまうと、笑顔を返してくれた。


「ははははは、そんなに似ていますか?あまり見つめないで下さい。恥ずかしい」


くぅ~~~好青年。茶々様が羨ましい。私だって早く真琴君と合体してこんな子を作るんだから。


黒坂龍之介信琴様が不満を持ち始めていた大工衆との間に入ってくれて、私は真琴君と同じ知識を持つ者だからと説得してくれた。

早く作る。早く作らないと次の地震では津波が来るはず。

造船所にも間違いなく被害は出るはず・・・・・・兎に角、今は急ぎたいの。

造船所に被害が出たら私がヨーロッパに行けなくなるのよ。

タイムリミットが迫っているのよ。


「1611年12月1日に出港出来るように兎に角、急いで」


私は私の持ている知識で今作れる全部を指示した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る