第661話 シチリア島と真田幸村

 さて、シチリア島を任されたがどうしたものか。


御大将は自分で地図を書いているのにシチリア島がどれほど大きな島かを忘れているのではないだろうか?


欧州イバラキ島と改めたサルデーニャ島と同じくらい広大な島なのに。


前田殿と柳生殿のを無事に通過させるならどのように攻めても問題はないか・・・・・・。


「我が真田は前田殿、柳生殿を無事に海峡を通過させるために囮となる」


そう言うと猿飛佐助が異を唱えた。


「幸村様、正気でございますか?敵の港を艦砲射撃で壊滅させるのが御大将が定石としてきた戦いかた。この戦艦・伊弉諾尊もその戦い方に特化したように作ってあります」


「佐助、御大将はシチリアを欲しいと思っていると想定できるであろう?」


「はい、御大将ならこの海峡も支配圏にしたいはず」


御大将が書く地図ではシチリア島は、イタリア半島とアフリカ大陸の中間にある島、交通の要所になり得る島だ。


喉から手が出るほど欲しいはず。


「シチリア島のパレルモと書かれている港へ向かう。だが、そこで蒸気機関を停止する。するとどうなると思う?」


「はて?」


「敵はこちらの大砲だけに注意すればよいと考え、小回りの効く船で突撃してくるはず」


煙を出さなくなれば敵は勝因があるはずと押し寄せてくるはず。


うちの家臣たちに帆をグズグズとわざと張らせれば「帆も張れないのか?」と、思うかもしれない。


そうなれば都合が良い。


実際は石炭節約で帆も活用しているが、そこは我が真田のだまし討ちの演技だ。


「これより敵の目の前で船の故障と帆に慣れていないように見せる一芝居をする。皆、下手くそにやるんだ。わかるな」


俺は兵士に指示を出すと、


「お~」


「船の操舵が下手な演技ですか?こりゃ~大変だ。はははははっ」


「あははははっ、今更、下手くそって目つぶっても帆張れるのに」


と、兵士たちは戸惑っていた。


蒸気機関を勢いよく炊き前田殿、柳生殿より先にシチリア島に向かう。


そして、敵の港パレルモ港へアームストロング砲が届くぐらいの距離まで近づき戦艦・伊弉諾尊の蒸気機関をわざと止めた。


風はなく高くまで上っていた煙はだんだんと薄くなり消えていく。


そこで家臣たちは甲板で慌てふためきながら帆を張ろうとするが、帆柱から落ちたりする。


もちろんそのような事は軽業が特異な家臣がする。


遠くから見れば慣れていないように見えるはず・・・・・・。


勝因を見いだしてくれよ、欲しかろうこの船、欲しかろう?さあ取りに来い。取りにくるんだ。


「殿、敵が船を漕ぎ出しました。勢いよくこちらに向かってきます」


最新鋭の船が、戦艦・伊弉諾尊が目の前で停泊していたら奪い取りたくなると思うはずだ。


考えは当たった。


「引付よ、引きつけるまでは風をつかむな、さあ、風よ味方してくれよ」


風が吹かなくても船上戦闘で討ち取る。


一度消してしまった蒸気機関は温め直すまでは時間が必要。


ここからは風が味方してくれるかが勝負になる。


しかし、俺はわかる。


今、時代は御大将、黒坂真琴に風が吹いている。なら、この船にだって。


「殿、良い風が掴めます。いつでも帆を張れます」


静がだった風が戦艦・伊弉諾尊へ向かって吹き出す。しかも狙い通りの方角に向かって。


「よし、帆を張れ、敵船団に向かって突撃、船首で潰しながら港へ近付き艦砲射撃を開始する」


巨大な船体は風を掴んで進み出す。


船首で敵の小船を踏み潰すかのごとく前進すると蜘蛛の子を散らしたように敵が慌てふためく。


そこをアームストロング砲で狙って撃沈させる。


次々に落ち着いて狙って。


蜘蛛の子を確実に沈める。


蜘蛛の子を沈め終わってから港の前に停泊。


船を取りに総出撃した港にはこちらを迎え撃つ船は残っておらず、港は大砲をこちらに向けて撃ってきたが届かない。


そこに一撃アームストロング砲を撃ち込む。


射程距離の違いを一撃でわかれば良いのだが。


案の定敵は大砲を一斉に空撃ちを繰り返した。


降伏の合図だ。


上陸船で猿飛佐助が率いる兵が上陸。


夕方には日本国旗がシチリア島に高々と上がった。

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