第654話 オスマン帝国使者
「じいや、じいやじゃないですか、なんでここに?」
欧州イバラキ島にオスマン帝国からの使者が来たので丁重に出迎えると、アセナが「じいや」と、懐かしそうに呼んでいた。
「ふぉっふぉっふぉっ、このじいや、アセナ殿下の事が心配で心配でアメフトス陛下が使者を出すというので買って出ました次第です。常陸様、申し遅れました。オスマン帝国のパシャを務めます、ムリタファス・ケラル・アダディリュクでございます。オスマン帝国皇帝アメフトスの親書を持ってきました。お目通し願います」
と、立派な髭をたずさえ頭にはターバンを巻く50歳くらいのムリタファスは、流ちょうな日本語をマスターしていた。
今、現在、世界ではと言うか、同盟国では日本語が出来ないと出世もままならなくなっているらしい。
そんな現状、使者は日本語が堪能な者が選ばれる。
そして、側室のアセナに近しい人物ならなお適任だろう。
「おにいちゃん、おにいちゃん、このじいやは私の護衛を昔っからしていたの、お祖父ちゃんみたいな者なの、お願いを聞いてあげて」
と、言ってきた。
「はははははっ、珍しいなアセナがテンション高いの。もちろん、オスマン帝国は同盟国、手紙など破棄するような事はしないから安心してくれ」
年下だが義理兄になるアメフトスの親書を破り捨てるような事はあり得るはずもなく、ムリタファスが持ってきた親書に目を通す。
内容は懇切丁寧な挨拶のあと、顔を付き合わせて会談をしないか?是非ともオスマン帝国に遊びに来て欲しいと言う物だ。
遊びと言うのは歓迎をしたいの代わりにでも使っている言葉だろう。
「アメフトス陛下は一度、常陸様にお会いになられましたがあの時はまだ皇太子、今では皇帝で国外に出る自由はなくどうか足を運んではいただけないでしょうか?」
と、ムリタファスが言ってくる。
「俺も一度、話をしたかったから是非とも行きたい。それにオスマン帝国には遊びに行きたい所がいっぱいあるから、アメフトス陛下とは仲良くしたい」
「ふぉっふぉっふぉっ、どこに行きたいですか?ご案内いたします」
「それは今の戦が終わってからおいおい、会談の場所ですがカルタゴあたりには出来ませんか?」
アフリカ大陸の平成時代チェニジア国のカルタゴは、現在オスマン帝国の支配権で地中海での日本国との交易の拠点として大きく発展している港町となっている。
この欧州イバラキ島からも近く、適している場所だ。
「ふぉっふぉっふぉっ、アメフトス陛下もそこが良いとお考えでした。常陸様はきっと足を運ばれるならそのあたりを選ぶだろうと私が出発したあと、向かってきております」
「なら、二週間後に行くとして良いですか?」
「はい、ありがたき御返答にございます。すぐさまカルタゴに向かいまして歓迎の準備をさせていただきます」
と、帰って行った。
本当はエジプトに行きたいのだが、それはこの戦いが終わってからのお楽しみとしておこう。
今は、物見遊山の旅は出来ない。
オスマン帝国との同盟を盤石な物にするのに動かねばならないときだ。
アセナを見ると、なにやらそわそわしている。
「はははははっ、心配するな、連れて行くから」
本来なら人質としてこちらに置いておくべきなのだろうが、久々に兄妹の対面をさせてあげたく、それは考えないこととした。
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