第561話 沈没
「総員退避、これは命令ぞ。船は捨てる。皆、避難船に乗り移れ」
・・・・・・
深夜、深い霧の中ドレーク海峡を進んでいると突如、船に衝撃が走った。
船なのにまるで地震にでもあったかのように突如体が立っていられないほど揺さぶられた。
何かとぶつかる音はメキメキと船底に穴が開いたのはすぐにわかるくらいの衝撃だった。
「申し訳ありません。突如霧の中から氷山が表れ」
「幸村、そんな報告は後回しだ。すべての者を避難させよ。この船に残ろうと言う者など俺が許さん。避難、避難せよ」
「はっ、先ずは御大将から避難船に」
「俺は最後だ。皆を見届けて乗る」
「それでは駄目なのは真琴様、知っているでしょ?皆が大将であるはずの真琴様より先に下船するような兵士達ですか?」
お初の言葉で、またやらかそうとしていた自分がいたのに気が付いた。
そう、俺がまず最初に逃げなければならないのだ。
カリブ海での惨敗の時も俺が一目散に逃げる行動をするべきだった経験を思い出す。
この船に乗る兵士達は選りすぐりの兵士達、俺より先に逃げるような意思を持つ者はいない。
「よし、俺がまずは船を下りるぞ、皆続け、死ぬことは許さぬぞ」
武甕槌に設置してある上陸用兼避難船である箱形船に乗り込み俺は武甕槌から離れた。
すると、次々にそれに続いて兵士達も下船をした。
30分後、苦楽をともにした蒸気機関外輪式推進装置付機帆船型鉄甲船戦艦・武甕槌は、静かにドレーク海峡の底に沈んでいった。
日が昇り始める頃、南米大陸最南端の岬。
平成時代には、ホルノス岬と呼ばれる地に5隻の避難船は着岸した。
幸いなことに死者は出ず、小滝が怪我人の手当をしている。
「申し訳ありません。この責任は私にあります」
そう言う真田幸村だが、切腹をすぐにしようとしないのは俺が日頃から命で償うのを禁止しているからだろう。
皆が暗い顔をする中、俺は。
「はははははははははっ、あっははははははははは」
と、わざと笑って見せた。
すると、お江が一緒に笑い出す。
一見幼く、いつも少々阿呆を装っているお江はそういうことには敏感で、俺が今の状況を笑い飛ばしたい事を察してくれたいた。
すると、うなだれていた兵士達も少しずつ笑い出す。
窮地を脱し緊張の糸が解けたとき笑いたくなる物だ。
「命あれば良いのだ。誰が責任をとるとかではない。ここはもともと危険な海域だし、今まで何事もなく船旅をして来れた方が奇跡なのだから」
と、真田幸村の肩を叩きながら言うと、
「はい」
と、小さくつぶやいた。
「いや~しかし、困ったな。食料はなんとか缶詰もあるけど、ここからクスコまで戻るにはこの船では少々厳しいし」
「私が走って伊達政宗殿に救援を呼びに行きます」
「幸村、無理があるから」
チリの複雑な沿岸を走らせて助けを呼ぶには遠すぎる。
こんな時、スマートフォンが使えれば良いのに・・・・・・。
あれは封印したし、もともとこの時代では使えなかったけど。
「取り敢えず怪我人がいるから、ここで静養する。ファナが大西洋の港に俺の寄港が予定されているのを伝えているのだから、それを頼みの綱とする」
「ああ、なるほど、寄港せず姿を見せなければ何かあったと思っていただけるかもしれませなね」
「望みは薄いけどな。ただむやみに動くよりは良いだろう」
山もそうだが、遭難したときはむやみに動く物ではない。
鉄則だ。
身の安全を確保し、動かないのが一番。
それを守ることとした。
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