第547話 グアヤキル城城下町
翌朝、俺はこっそりと城を出て城下町に一人で繰り出そうとした。
「マコ~、一人でどこ行くの?」
と、お江に見つかってしまう。
「散歩だよ、散歩」
「ふぅ~ん、なんで隠れて行くの?」
「いや、たまには一人で自由にしたいじゃん」
そう、俺は自由ではあるが出かけるとなれば必ず誰かが護衛に付いてくる。
自由と言いながらも自由ではない。
それは仕方のないことだとはわかっていても、たまには肩書きを忘れて一人でふらりとしてみたい時だってある。
それがアメリカ大陸なら、俺の顔もさほど知れ渡っていないので、その欲求が強く出てしまった。
「一人でこっそり出ると、初姉上様怒るよ~」
と、言いながら腕にがっしりしがみついてきた、お江。
連れ戻されるのかと思えば、
「私も行く~」
と、はしゃいでいる。
なかなか二人っきりと言う事になれないので、お江は嬉しいみたいだ。
「ははは、二人で怒られるか?」
城をこっそりと抜け出すと町はまだ人通りは少なく、店前を掃き掃除などをしている者がチラホラと見えるくらいだった。
「マコ~、まだお店やっていないね。朝ご飯まだだったからお腹空いたよ」
「そうだな、朝ご飯も町で食べてみようかと思って出たのだが・・・・・・」
道先を遠くまで見ていると、突如大通りの正面から馬が走ってくるのが見えた。
店先を掃除している人に向かっていく、暴れ馬だ。
「キャーーーーーーーーーーーーー」
悲鳴が聞こえる。
俺はその人に向かって走りながら術を唱える。
暴れ馬を沈める術。
俺は昔っから、暴れ馬に対して取り押さえるのが上手いと褒められていた。
だから、高校時代「茨城の暴れ馬」などと、あだ名をつけられてしまったが。
術を唱えながら、その人と馬の正面に立ち塞がると、突進してきた馬はピタリと止まった。
そこへ、くノ一レベルで身軽なお江が馬に飛び乗り手綱を握った。
馬は静まり後ろから汗だくで走ってきた老人が、ひたすら謝っていた。
「オサムライサマ アリガトウゴザイマス」
片言の日本語で謝る老人に、お江が手綱を渡して、
「離しちゃ駄目だよ」
「モウシワケナイコトデゴザイマス オレイをいたしたくオナマエを」
と、言うが俺は、
「名乗るほどの者ではござらん」
と、一度言ってみたかった時代劇の決めぜりふを言うと、
「黒坂真琴だよ」
「あっ、こら、お江」
お江が勝手に名乗ってしまう。
「クロサカ・・・・・・ふぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・ソンナ・・・・・・シカシ、イマ来てるって」
来城しているのは港を見れば一目瞭然だ。
俺の蒸気機関外輪式推進装置付機帆船型鉄甲船戦艦・武甕槌が停泊しているのだから。
土下座をしてしまう馬飼の老人。
人通りの少なかった大通りで起きたこの出来事は目立ってしまい、人が集まってきてしまった。
「お江、走って帰るぞ」
「え~マコ~、朝ご飯は~」
「馬鹿、今はそれどころじゃないだろ」
そう、俺がいることがわかれば大騒ぎになってしまう。
しかも、お供も連れずにお忍びでだといろいろ面倒事が起きかねない。
急いで城に戻ると、城門の前でお初が仁王立ちしていた。
「お早いお帰りで」
「ぜ~は~、ぜ~は~、今はそれどころではない、ふぅ~」
「初姉上様、散歩しに行ったんだけど、口滑らしちゃった」
と、テへペロをしている、お江。
そこにお初が、ぐう手で頭をごっつんとしてきた。
俺とお江は頭を押さえる。
「いたたたた、何も殴らなくても」
「初姉上様、痛いです~」
「城内がどれほどの騒ぎになっていると思っているのですか、皆、大変心配して探していると言うのに」
俺は、あの八代将軍ドラマに憧れて町に少しだけと思い出たのに、城内では大騒ぎになっていた。
あのドラマって度々、征夷大将軍が町に繰り出しているが、実際それをすると家臣は苦眼になって探すことになる。
探さない方が可笑しい、現実とドラマは大違い。
「お忍びで出たいのなら、せめて忍び衆だけども連れて行ってください。今日は罰として、ご飯抜きです」
お初は恐い。
側室だからと言って俺の下ではない。
対等な関係を築いてきた。
だから、怒る時にはしっかり怒るのだ。
お江がお腹を押さえながら、
「そんな~、初姉上様~」
と、涙を見せていたが、お初は許してくれなかった。
「ごめんなさい」
と、だけ謝り仕方なく自室に入り空腹を座禅で乗り切ろうとすると、桜子が
「内緒ですよ」
と、言って梅干しのおにぎりを差し入れてくれた。
強烈に酸っぱい梅干しを食べながら、俺の人生もなんだか酸っぱいなっ、などと思う。
自由がない人生。
これは、なかなかしんどい物だ。
少しだけ城下を覗きたかったのに。
ちなみに、伊達政宗は二日酔いで寝込んでいたらしい。
騒ぎを後から知った伊達政宗は、
「私も陣中で夜中ひっそりと水浴びをしていたら、小十郎に怒られた事がございます」
と、笑っていた。
大将という物はそういう物だと、二人で笑うしかなかった。
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