第498話 釜揚げフィリッペⅢ世

1603年9月1日


 ジブラルタル城城下町には石造りの10メートルの高い塔が完成している。


その塔の天辺には大きな鉄釜がセットされている。


油を注いだ中にイスパニア帝国元国王フィリッペⅢ世。


火はまだつけていない。


観客は市民だけでなく各国から大使が来ている。


大勢集まる中、ホラ貝と和太鼓が鳴り響くと観客は静まりかえった。


柳生宗矩が処刑前の口上を読み上げる。


「フィリッペⅢ世、この者、日本国の友好的使者である織田信雄を一方的に殺した事、インカ・マヤ・アスティカの国々を侵略し多くの使者を出し強奪した事、一方的な固定概念の押しつけにより太古より続く文化を滅ぼそうとしてた事、これは許されざる行為である。よって、これより釜揚げの刑を行う。地獄の業火に消えよ」


俺が書いた口上だ。


宗矩が刀を抜き振り下ろすと釜の下の薪に火が着けられる。


メラメラと燃え出すと、油が少しずつ温まっていく。


最初はちょうど良い温度になるが、だんだんと熱くなる。


その熱くなる頃合いで一旦火をどける。


じわりじわりと熱するのだ。


猿ぐつわをしているフィリッペⅢ世は顔を真っ赤にして暴れている。


釜の中で滑っては顔を油に漬け火傷した顔が見える。


皮がただれ見るも無惨な姿に変わっていく。


約20分苦しみ暴れるが、その力も尽きたようで静かになる。


そしてまた火を焼べる。


油はドンドン熱せられ煙が出てくる。


そして、発火温度になり釜の油は火を噴いた。


燃える釜の油。


「今後、同じような侵略者が現れるとき、この釜に入れてくれる。よくよく見ておけ、これが地獄の業火よ。すべてを燃やし灰も残らぬようにしてくれよう」


公開処刑の釜は常に油を注いで燃やし続けるのだ。


その火を侵略者の野望の炎より勝れば、後の世に侵略者は生まれない。


火を燃やし続ければ伝説は語り継がれる。


語り継がれれば教訓になるのだ。


織田信長はその業火を満足げに見ており、市民は元国王の死と支配者が変わると言う複雑な心境からか沈黙が続いた。


そして、俺は織田信長の脇から立ち上がり、軍配を振り下ろす。


ジブラルタル城港に接岸している艦隊が空砲を撃ち鳴らした。


軍事力の誇示も忘れない。


すべてがワンセットの演出。


やり過ぎだろうが、これからイスパニアを支配していく上で絶大な力を示すことは重要なのだ。


各国の大使はその空砲に顔を青ざめていた。


フィリッペⅢ世の処刑は一時代の幕を閉じると共に、新たな時代への幕開けを意味していた。


フィリッペⅢ世の入った釜は油をつぎ足しつぎ足しさせ永遠と燃えさせるつもりだ。


永遠の業火で焼き続けられよ。

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