第395話 ハリケーン
束の間の休息を終え再び艦隊を東へと進めだした。
ファナ・ピルコワコは俺の船で客人扱いだが、南アメリカ大陸の言葉、インカ言葉を教えている。
もちろん俺も習う。
そんな航海の中、波が段々と荒くなり、風も強くなる。
空は晴天から白い雲空に変わり、黒々した雲に変わり雨が降り出す。
雨は小雨から大雨、盥をひっくり返したような大雨。
船は大きく揺れ出す。
俺は畳にあぐらで座っていると起き上がりこぶしのように左へ右へと激しく揺れ出す。
「荷物の固定を再度確認しろ、甲板で作業する者は命綱だ。海に投げ出されるなよ。嵐などと言う物は数時間たてば過ぎ去る。皆とにかく身の安全を優先してくれ」
兵士達に指示を出す。
積み荷などが暴れ、俺も身の固定が厳しくなる前に甲冑を着用する。
白銀に輝く、鹿島大明神愛闇幡型甲冑。
ヤクの白い毛は風に大きく靡く。
柱や壁にぶつかっても多少なら怪我が防げる。
兵士達にも最低限兜だけは被れと指示を出す。
お初達は女の子であっても武術の修練をしているため、キャーキャー騒いだりはしない。
お初とラララはむしろ兵士達に指図をし、小滝は怪我した者など手当てをしていた。
小滝は子種欲しさに漢方調薬に目覚めたあと、医師から学ぶようになり、医学的知識を持つようになっていた。
心強い俺の側室達。
ハワイ島を過ぎてからの嵐だからハリケーンになるのかな?
嵐の激しさは頂点に達すると、流石に兵士達の中でも弱音を吐く者が現れる。
「もうだめだ」
「海の藻屑になるんだ」
「魚の餌になりたくない」
などとの声が聞こえる。
「祓いたまへ清めたまへ守りたまへ幸与えたまへ、マヤの神フラカンよ、我はマヤの民を思いし者、滅びゆくマヤ人を守りたければ我に力を貸し与えたまへ」
と、マストの一番高いところに登り縄で体を縛り付けて大声で唱える。
陰陽道ではない、陰陽に流石に天気を左右させる力はない。
ただただ祈っている。
ハリケーンの語源はマヤ神話の創造神の一柱であるフラカンに由来するとされる。
届くなどとはおもっていない。
兵士達へのアピールだ。
陰陽師で有名な俺がこうやってパフォーマンスをすれば兵士達な士気は上がる。
案の定、
「我らの大将様のお姿を見よ、助かるに違いないぞ、皆、持ちこたえようぞ」
と、侍大将クラスの家臣達が鼓舞する。
希望を持つか持たないかは窮地の時には重要だ。
約3時間嵐と格闘すると一気に雲は抜け、青空が見えてきた。
波も風も落ち着きだしてくる。
俺はマストから降りると、お初に
「無謀な事をして」
と、言われながら強く抱きしめられる。
被害を確認するが艦隊は幸い沈没はなし、消えた戦艦もいなく、マストに多少の被害が見受けられる程度、兵士達も打ち身などの怪我人が出た程度と情報がはいる。
そんな中、背中のほうから声が聞こえた。
「ピラコチャ?」
ファナ・ピルコワコの一言だった。
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