第302話 1591年正月・安土よりの使者

 1591年元旦、俺は側室達全員を天守最上階で初日の出を粛々と待っていた。


ラララ・リリリも例外ではない。


ただ、太陽を天照大御神として拝むことは強要はしていない。


ハワイも太陽を神として崇める信仰はあるとのことで、その神として皆と一緒に拝むと言う。


茨城城の天守は東を見れば霞ヶ浦の先にかすかに見える太平洋の水平線が見える。


そこから少しずつ空が赤く染まっていく。


暗闇から明るい世界に変わる瞬間、それを待っている。


水平線から少しずつ顔を出す太陽は神々しく、太陽という物が科学的にどのような天体で星の一つであると知っている俺でも、神秘な物として拝むのは地球に生きる生物は太陽のおかげで命がある、そう思うからでもあった。


太陽が昇りきると時刻は7時30分を過ぎたくらいであり、皆で朝食を食べた。


元日の精進料理とはなんともがな?と、思うかもしれないが、俺の料理で鍛えられた桜子達は豪勢な料理を作り上げていた。


野菜たっぷりけんちん汁風お雑煮がメインだったが野菜を大量にいろいろ煮込むと出汁が出て大変コクがあり美味い。


そんな料理に舌鼓を打ち茶々の膝枕で休んでいると、


「御大将、安土より御使者が来ております」


と、力丸が走ってきた。


「新年早々、仕事の依頼?すぐに大広間に通して」


と言うと、その使者はなぜだか


「ごしょうしん、ごしょうしん」


大声で叫びながら廊下を進んでいた。


「執心?就寝?・・・・・・終身?終身刑・・・・・・?」


珍しく俺は下座に座ることになる。


安土からの正式な使者なのだから、そのような着座位置になる。


使者の顔を見ると終身刑などと言うはずもない、和やかにしている前田利家だった。


「上様、太政大臣・織田信長公、左大臣征夷大将軍・織田信忠公連名の上意を読み上げます。上意、大納言黒坂常陸守真琴、従二位右大臣に任命する」


「へ?大臣?」


お祖父様、俺はどうやらお祖父様の願いを叶えられたようです。


総理大臣という役職は存在しないので、右大臣でも良いですよね・・・・・・。


上意を立って偉そうに言っていた前田利家はトスンと腰を下ろして、


「堅っ苦しいのはここまで、おめでとうございます。常陸右府様」


と、少し固まって顔を引きつらせている俺に


肩を叩いて喜びの笑顔を見せてくれた。


その笑顔はまさにトレンディー俳優のようだった。


後ろに控えていた力丸と茶々が、


「おめでとうございます」


と、喜んでいると前田利家は


「あと、森力丸も昇進で正四位下参議、茶々の方様も従三位中納言に任命されたことをお伝えいたします」


織田信長の黒坂家好待遇は続いていたのね。


他にも、

お初・従五位下少納言

前田慶次・従五位上右衛門佐

真田幸村・従五位下治部少輔

柳生宗矩・正六位上右近衛将監


と言う異例の官位官職の任命が伝えられた。


森力丸は名目上は俺の目付役のため直臣ではなく織田信長の家臣、そして、茶々は俺の留守を守ることが多い、その二人が官位が上がるのは黒坂家にとってはありがたい事だ。


さらにうちの重役達も、と言うのだから驚いた。


「ありがとうございます。喜んでお受けいたします」


と、礼を言うと、


「上様は、こうおっしゃられていました。「常陸は領地を増やすより官位官職のがありがたがるからの、単なる肩書きですらない形ないものなのに、変わったやつよ」と、どこか領地を御加増するおつもりだったみたいすが、あまり喜ばないだろうと」


「はははっ、領地はもうほんと十分ですから」


もう土地はいらない。統治できる限界なのは自分がよくわかる。


俺は、それよりも昔から憧れている官位官職の方が良い。


変わっているのは自覚しているが、子供の頃の憧れは変わらない物だ。


「それより松が変わった城だと褒めていましたが本当に面白い。これが萌城ですか?不思議の世界だ」


と、今更ながらに前田利家は呆れていた。


この晩、精進料理で祝宴という変わった宴会が開かれた。


しかし、コロッケや野菜のかき揚げ天ぷら、こんにゃくステーキなどで前田利家は


「やはり黒坂家への使者に来て良かった。美味いものが食えると皆が進んでなりたがっていたが私は黒坂家と昵懇ですよって言ったら拝命されたので良かった良かった」


と、喜んでいる。


「はははっ、そう言って貰えると嬉しいですね」


「さあ、今宵は飲みましょうぞ。伊達殿ばかり可愛がっておらずにうちの息子達もよろしく頼みますぞ」


と、前田利家は少し絡み酒になり始めていた。


前田利家の跡取りって確か、加賀の文化的向上に貢献しているのだけど、俺と会って大丈夫なのだろうか?と、自分でも少々気になっている。


きっと大丈夫なのだろう。


そう信じよう・・・・・・。


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