第191話 藤堂高虎

 大広間の襖を開けると大きな男、武将がやはり珍しいのであろう、天女の襖絵と欄間をじっくりと見ていた。


俺もこの時代線では大男なのだが、部屋を見回している男は俺よりも背が高い。


「御無礼仕りました」


と、言って下座の離れた所に座る。


・・・・・・阿部ちゃん?


背が高く日本人離れした顔立ちはどことなく、こだわりの強い結婚できない男に似ていた。


「ああ、構わないよ、良いでしょ、この襖絵に欄間」


「はい、とても素晴らしき一品ですが、それより驚いたのはこの城の縄張りです、何ですかこの形は初めてです」


そう、今話しているのは築城の名手・与力となった藤堂高虎だ。


藤堂高虎は史実歴史では数々の名城と言われる城を作る人物。


「銃火器戦での防衛撃退を考慮している作りなんだよ」


「確かに、この城の縄張りなら、死角はなく敵を狙い撃ちにできます。素晴らしい、この城の作りは本当に素晴らしい、流石、上様の懐刀」


陵堡式、考えたのは俺ではないが、城作りの名手から褒められると嬉しいものだ。


「早速で悪いのだけど、城作りを頼みたいのだけど良いかな?」


「勿論でございます。どこに建てれば?」


「近くに来てもらっていいかな」


と言うと、高虎は膝歩きで頭を低くしながら俺のいる上段の間のすぐ下まで寄ってきた。


そこで、地図を広げて指さす。


「磐城と常陸の国境のこの五浦(いづら)近くの湾を利用して貿易の拠点と、北からの守りとして城を作って欲しいのだけど」


と、北茨城市平潟町あたりを指さした。


「かしこまりましてございます」


「ここって、結構切り立った断崖絶壁の鵜ノ子岬と呼ばれる岬があるんだけど、そこに小さくて良いから天守を作って最上階を毎夜、光らせて欲しいんだよね」


と、言うと俺の顔をパッと見る高虎。


「天守に灯台の役目を持たせると言う事ですか?」


「そう、櫓でも良いんだけど、天守あったほうが良いから、でも、天守作っても、住むわけではないし、見張りをするための天守ってだけでは、もったいないでしょ?そこで、夜は最上階を出来る限り光らせて、灯台とすれば宝の持ち腐れにならないかと思って」


大きな目で俺の目をギラギラと輝かせて見つめてくる高虎。


「素晴らしい、そのような考え出てきませんでした。この高虎、恐れ入りました。数々の城を作っては来ましたが、このような考えは初めてです」


と、今にはキスをしそうなくらいに身を乗り出し顔を近づけてきた。


「予算は、力丸と相談して、何もない地だからゆっくり立てて町も整備して」


「はっ、この高虎の築城の経験を使いまして、大納言様の期待に副えるよう働かせていただきます」


「で、申し訳ないのだけど、城主は伊達政道だから、この城が完成したら次に大洗にも海城を築いて、高虎にはそこの城主、もしくは、城代に任命するつもりだから」


伊達領が隣だと言うのに、あえてその守りの城を伊達政宗が弟、伊達政道と考えた。


それは、伊達政宗に対する俺の意思を見せる意味がある。


伊達を攻めるつもりなどないから、弟の政道を北の守りに置くんだからね。


だから、政宗も敵対してくれるなよ、と、言う俺のメッセージなのだが伝わるだろうか?


「察するに、この城の防備はあまり敵意をむき出しにしない作りがよろしいわけですね?」


高虎は、気付いたようだ。


うちに来る前に事前情報を集めてきたのだろう。


「そういう事」


「あいわかりましてございます。北からの守りとしながらも敵意を見せない城、作って見せましょう」


そう、高虎は言い残し、力丸と築城資金の打ち合わせをして常陸国の海沿い最北端の地に向かった。

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