第189話 一豊と千代
桜がすっかりと散ったころの日、いつも通り執務をこなしていると、
「御大将、山内一豊が登城いたしました。着任の挨拶を願い出ております」
と、宗矩が言う。
「おっ、やっと来たか、大広間に通して」
「かしこまりました」
身なりをそれなりに整え、与力として着任した一豊と対面するために大広間に出向くと、そこでは襖絵や欄間を見回している男女二人がいた。
「これ、御大将、大納言黒坂常陸守様ぞ」
と、宗矩が叱責に近い形で注意する。
「申し訳ありません」
と、下座に慌てて座る二人。
・・・・・・五分、お時間いただけないでしょうか?って言いそうな上川さん?
・・・・・・ずずずいーと、お見通しって言いそうな・・・・・・仲間由〇恵?
どうも、この戦国時代線の武将は俺がイメージが強いドラマ俳優の配役に近いらしい。
「ははは、珍しいですよね」
畳に額を着けるようにしている二人。
「大納言常陸守様は、面をあげよと申している」
宗矩は俺の足りない言葉を説明していた。
なんとか慣れては来ているが、年上の者が俺の前で土下座をする。
官位官職、地位的に仕方ないのだが、「面をあげよ」っとついつい言い忘れてしまう。
「えっと、面を上げて、普通にして話してください、かしこまられると話しにくくて」
とっ言うと、上川さんは顔をあげた。
「山内猪右衛門一豊、上様の命により本日より、黒坂家与力に着任いたします」
と、大きな声で、はきはきと聞き取りやすく言う。
うん、この人も真面目そうだね。
「えっと、そちらは?」
「我妻、千代にございます」
と、紹介してはくれるが千代は土下座のままだった。
「あーっと、本当に頭上げて良いから」
「も、申し訳ありません、こ、これ千代」
「恐れ多き事、私めの顔などと」
なんか、めんどくさそうな嫁さんだね。
「千代と申したな、御大将の言葉を聞こえないのか?」
宗矩はいらいらしているように言う。
「怒らなくていいから、登城したんだから顔見せに来たんでしょ?」
「こ、これ千代、これから我らの主になる方ぞ、顔を見せよ」
と、一豊が言うと、顔をあげた。
「大納言様の顔を拝めるなんて、もったいのうございます」
と、再び顔を下に向けてしまった。
なんか考えでもあるのか?めんどくさそうだから話を進めよう。
一豊が与力としてくることに決まってから仕事は決めていた。
「一豊、さっそくで悪いのだけど、水戸に行ってもらえるかな?」
水戸城、高山右近に任せるつもりだったが、右近は笠間城の改築を始めたばかり、水戸を放置するわけにもいかない。
南北に長い俺の領地としては真ん中の重要拠点、早々に整備を開始したかった。
「水戸の城ですか?佐竹の残党はいかがいたしましょう?」
「それもひっくるめて任せたいのだけど駄目かな?」
「ずずずいーと、引き受けましてございます」
「???」
「これ、千代、勝手に返事をいたすな」
「しかし、お前様、一城を任せていただけると言うのは武門の誉れ、迷い返事でどうします」
「これこれ、夫婦喧嘩をするでない」
ナイス、宗矩。
「一豊、どうする?」
「はっ、はい、引き受けさせていただきます」
「整備費用は力丸と相談して、城としてはさほど防御力をあげる改築はしなくていいから、常陸国の北と南、東と西をつなげる要所の町として整備をしてほしいんだよ、あそこは那珂川があるから氾濫しないように治水に力をいれてね」
「この一豊、一命をなげうちまして期待に応えるよう働かせていただきます」
「あーっ、またか、あの、失敗したからと言って、切腹とかなしだからね、うちは。正純も命かけるとか言っていたけど、命は大事に、体は大切にしながら働いてね、一豊は確か脳溢血になるはずだから酒は控えて」
場が静まり返った。
畳に顔をうずめそうになっていた千代も顔をあげた。
しまった、やってしまった。
未来の知識、思わず出てしまった。
「御大将は世間で噂されている通り、陰陽力の使い手である」
と、襖を開けて力丸が入室してきた。
「そ、そう、占いで見えたから頭の病気に注意してってことだから」
と、力丸に合わせた。
「はっ、ははー、かしこまりましてございます」
「ありがたや、ありがたや、大納言様に占っていただけるとは」
と、千代は拝んでいた。
退室すると、力丸に注意された。
「気を付けてください」
と。
改めてこの後、山内一豊を水戸町奉行兼水戸城代に任命した。
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