第185話 1588年正月
こちらに来て5年が過ぎた。
意外に長く、そして、早くあっという間の5年だった。
5年と言う短期間で正三位大納言・常陸守と言う地位にまでなり、一国一城の主となってしまった。
高校の修学旅行で消えた俺、タイムスリップしてしまったなどと誰も思わないだろう。
そして、戦国武将として活躍しているなどと誰が思うだろうか。
この世界の時間線では俺は名前が残るのはほぼ確定的だろうが、もともとの時間線では単なる行方不明者。
きっと、探しいる。
一緒にあの寺の地下に入った、同級生たちはタイムスリップしたのだろうか?
タイムスリップしたとしても、おそらくは違う時間線か?
今、日本国で俺の名は轟いている。
同級生がタイムスリップしたなら、必ず訪ねてくるはずだ。
いや、タイムスリップした先でちゃんと生き延びられた保証もない。
俺は兎に角、運が良かったとしか言いようがない。
タイムパラドックスは複雑でどの様になっているかなどと考えても答えなど出ないが、今の時間線の未来に手紙を書いておく。
そう一つの区切りとして考えた。
もし、この時間線でも平成で『黒坂真琴』は誕生し修学旅行で消えるかもしれない。
だったら、家族に無事を知らせたい。
そして気がかりなこともある。
俺の趣味の数々の品。
見られているんだろうな。
出来る事なら見られず、人目にさらされず処分して欲しい。
矛盾はしている。
今は左甚五郎と言う名工に、狩野永徳に萌えを作らしているのだから。
しかし、高校生だった自分の趣味は狭い範囲にしか漏れていない。
高校生だった自分の友人間でのイメージ、それが崩壊するのはいやだ。
出来る事なら防ぎたい。
だから、可能性があるのなら実行するべきだ。
そう考え、ぶ厚い頑丈な和紙を力丸に用意してもらい手紙を書いた。
未来に当てた手紙。
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拝啓
こちらの世界に来て早、五年が経過しました。
修学旅行で消えた私はどのように扱われているのか心配ではありますが、信じられない話しですが、いわゆる異世界転移と言うのでしょうか、タイムスリップをしてしまいました。
私を厳しく育てていただいたおかげでなんとか戦国時代を生き抜くことが出来ました。
父上様は私に人の上に立つ人物になれと仰いましたが、現在、私は大納言常陸守と言う役職をいただきました。
家臣も大勢おります。
大臣になれと言っていたお祖父様は元気でしょうか?
もうすぐ私は右大臣になれそうですが総理大臣にはなれなさそうです。
書きたいことはいろいろありますが一つ頼みがありまして、この手紙を書いた次第にございます。
私の使っていたパソコンを破壊してはいただけないでしょうか?
あの中には誰にも見られたくない、私の黒歴史が詰まっております。
押し入れに隠しておいた美少女フィギュア、美少女抱き枕カバー、コミケで買った薄い本も処分していただきたくお願いいたします。黒ギャルの写真集は父上様に差し上げます。
私の記憶が正しければ、法隆寺は平成まで火災もなく残ると思いますので、この手紙を法隆寺住職に託させていただきます。
こちらの世界ではオンラインゲームはありませんが、毎日がRPGをしているかのようで楽しんでおります。
父上様、母上様、皆様、こちらの世界でそれなりに幸せに暮らしていますので御安心ください。
茨城県立北常陸高等学校二年B組 正三位大納言常陸守黒坂真琴
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届くはずなんてないだろう。
しかし、可能性は完全に否定は出来ない。
これを頑丈な箱に入れて、平成までほぼ無傷で残る法隆寺に収めてみよう。
上手くいけば、俺の部屋は人目にさらされることなく片付けられるはずだ。
厳格な祖父が、見せるはずもない。
孫が隠したいと思っている物を見せるような祖父ではない。
頼むぞ、お爺様。
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