第158話 徳川家康の御礼
部屋には座っている頭を下げた青年が一人と俺の家臣が座っている。
俺が座る場所と徳川家からの使者との間に太刀を携えて柳生宗矩が座っている。
柳生宗矩も史実なら徳川家の家臣なのだが今は俺の家臣、そう考えるとなんとも不思議な光景ではあるのだが。
「おもてをあげられよ」
と言うと青年は軽く頭の角度が20度くらい上がるが顔は見えない。
「あぁ、そういうのめんどくさいから顔上げて」
と、俺が言うとようやく顔が見える。
「本日はお忙しい中、また、突然来たのにも関わらず拝謁の栄を賜りまして誠にありがとうござます。それがし、徳川家康が家臣、本多正純と申すものどうかお見知りおきくださればありがたく」
「あぁ、かたっ苦しく話さなくて良いから」
と、言うと、宗矩が、
「御大将は形にはあまりとらわれないのでお気になさらず」
と、言う。
「はい、わかりました。本日は主より常陸大納言様へお礼の品を届けに来た次第でございます」
「御礼?」
「はい、南光坊天海の件にございます」
見たところ何も持っていないような。
「仕事ですから」
「その御働きにより徳川家は存続できました。あの時、織田家に背を向けていたら、我が領国も北条のようになっていたかと思うと徳川家一同背筋が凍ります」
「まぁ、上様も家康殿を敵にしたくはなかったみたいですから、で、やることあるから時間あまりなくて催促みたいで悪いけど、その御礼の品は?」
部屋に戻って拠点決めをしないと引っ越しが出来ないから自室に戻りたい。
「はい、常陸大納言様への御礼の品を我が主ともども当家で皆が悩みました。
武具、茶器、金子、女。
しかし、武具は火器作りの鬼才の常陸大納言様には失礼であり、食道楽の鬼の常陸大納言様は茶は飲むけれど自分ではお点てにならず、貨幣改革の鬼奉行の常陸大納言様に金子もどうかと言う話になりまして、徳川家ゆかりの姫を差し出すと言う話にまとまったのですが、取り次いでいただいた御正室様に烈火のごとく鬼の形相で叱られました」
うん、茶々、よくやった。
徳川家康ゆかりの姫を当家に置くのは嫌だし、側室は十分いる。
しかも、子種略奪競争が始まりそうな勢いの嫁と側室、十分すぎるから。
「で、この正純考えました。今、常陸大納言様に必要な物は人ではないでしょうか?」
「人?」
「はい、働き手にございます。今、常陸には徳川家の軍勢がおります。その者たちを使っていただき、常陸大納言様が住まわれる地に、希望される地に築城なりなんなり手伝いたい思います」
「おっおー、それ良い、それすごく助かるけど良いの?」
「はい、最早、徳川の大勢の兵など無用の戦いが行われる世に近づいておりますので」
そう言って、俺をしっかりとした目で見ている正純。
久慈川の殲滅戦は徳川の無力化と言う効果もあったのかと言うのを改めて感じた。
「では、数日熟慮して城、建てたい場所とか指示出すから待ってもらえるかな」
「はい、もちろんにございます」
俺は自室に戻り再び、地図を眺めた。
徳川の常陸にいる兵って確か、30000くらいはいたはず、総がかりで城なり治水工事をやらせることが出来るって、すごくありがたい礼だ。
しばらく考える。
ん?あれ?そう言えば城に詳しいの、うちの家臣にもう一人いたやん。
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