第139話 海上決戦
伊豆半島を左側に眺めながら進み、伊豆半島と大島の間を通っているころ甲板があわただしくなった。
「敵、敵の船が前方に見えます」
と、叫んでいるので前を目を細めてよくよく見ると確かに水平線に蟻の大群が浮いているかの如く船が見えていた。
「右舷前進、横一列となり迎え撃つ、大砲弾込めー!」
と、九鬼嘉隆が軍配を高々に掲げた。
織田信長は自室でただただ胡坐をかいて目を閉じている、真っ青な顔をして。
信長様、やっぱり船酔いしてますよね?
俺はその姿を後ろに見ながら二階から耐衝撃型スマートフォンで甲板の様子、敵艦隊の様子を撮影している。
こちらの南蛮型鉄甲船には片側に12門の大砲、左右合わせて24門の大砲を積んでいる。
それが30隻なのだから720門の大砲がある。
そして、火縄銃改も大量に発射できる狭間があるが、艦首を敵に向けていたら砲撃が出来ない、その為、横に並んで大砲を撃つことになる。
相手がどのような兵装をしているかがわからないが、旧式の大筒か炮烙を投げてくるのは想像できる。
しかし、こちらは違う。
フランキ砲とライフル砲。
もともと織田信長が一向宗石山本願寺攻めで使用した鉄甲船には最新式の青銅でできたカートリッジ型の弾を後ろから詰める後装式砲のフランキ砲なのだが、火縄銃の改良に合わせて大砲も改良を試みた。
その結果的に出来上がったのが、砲身内に螺旋状のライフリングを施したライフル砲に近いものだった。
ライフル砲は前から弾を詰める前装式砲で連射が出来ないと言う弱点がある。
そして数も揃えられなかった。
青銅製ではなく鉄製の大砲の為、多くの鉄を必要としたからだ、そこで各艦に左右に2門ずつライフル砲を搭載、一艦4門をライフル砲とし、残りの20門をフランキ砲とした。
ライフル砲は射程距離およそ1000メートル、流線形の鉛でできた弾が発射される。
射程距離、命中率がフランキ砲に比べて大幅に向上している。
フランキ砲だって改良していないわけではない。
元々のフランキ砲の鉄弾だと射程距離は300メートルから400メートルぐらいだったが、弾を花火のように紙にくるんだものに変更した。
もちろん運動エネルギーとしての破壊力は落ちるが、弾の中身に石や鉄を火薬と共に詰め込んだ炸裂式の砲弾にした。
軽量化した分射程距離は600メートルほどに伸びた。
そうこうと大砲の説明をしているうちに敵の船団がすぐそこまで見え始める。
敵の船団は、北条の三つ鱗と丸に二引きの里見家の家紋が見えた。
北条の水軍と里見家の水軍の船は、やはり旧式の日本式軍船の安宅船と関船と小早と呼ばれる小舟の船団だ。
旧式といえども数は明らかにこちらより上回っている。
大小合わせて300から400隻はあるだろうか、こちらは南蛮型鉄甲船30隻とおまけの徳川家康の安宅船1隻。
九鬼嘉隆が軍配を高々と掲げるとほら貝が鳴り響いた。
軍配を勢いよく振り下ろすと、太鼓がなった、と、同時に衝撃が体を揺らす。
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
ドォーンー!
それが一斉に30隻からなる艦隊から鳴り響く。
30隻の南蛮型鉄甲船の大砲360門が一気に火を噴いた。
白い煙があたりを真っ白にするがすぐに風に吹かれて消えると、敵の艦隊が沈没したり燃えたりしているのが見えた。
さらにまた、軍配を振り上げる九鬼嘉隆、5分ほど待ち振り下ろす同じことを三度繰り返した。
計1080発の弾が敵艦隊に降り注いだのだ。
敵よりも射程が長い大砲を備え、横一列で構えている艦隊に突っ込んできた敵艦隊は格好の餌食。
攻撃してくる前に海の藻屑と化していた。
海上決戦はあっけないほどの勝利で幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます