第137話 南光坊天海

「やはり、常陸の素性を調べ上げておくべきだったか」


と、言う南光坊天海。


俺の素性をちょくちょく徳川家康が探ってきていたのは、その為だったか。


「狐、目的はなんだ?」


俺は太刀を構えて、いつでも斬りかかれる態勢を取りながら言うと、


「そうそう狐、狐と言うな、我が名は穴山梅雪、武田家再興を望むものよ」


穴山梅雪、武田家の重臣、武田信玄の次女を正室に持ち武田家御一門衆なのに勝頼を見限って織田家に降った武将の名。


「穴山梅雪、知っているぞ、武田勝頼を裏切った者ではないか?」


「ふははははは、裏切るか、織田家を中から壊そうと思って内応して降ったように見せていたのに勝頼様があっけなくやられてしまってな、だったら信長の首だけでもと思って気鬱の病を患っていた明智光秀に我が別け御霊を乗り移らせた取り憑いたというのに、貴様さえ現れなければ」


と、両手に持つ短刀を俺にめがけて投げてきた。


「死ねっ」


俺は一刀目を左に避け、二刀目を太刀の束ではじき一足飛びで間合いを詰めて斬りかかると、南光坊天海は赤い法衣を脱ぎ俺に投げるのと同時に懐に持っていた数珠を忠勝に投げつけると、一瞬の隙をかいくぐり襖を蹴り破り中庭に転がり出る。


「ふはははは、今日は本能寺の邪魔をした者の正体を見破っただけで良しとしてやるは」


ボフッ


と、煙玉らしきものを地面にたたきつけて煙が出ると姿はなかった。


狐の正体、それは妖魔に魂を売り怨霊となった穴山梅雪、すぐ近くまで接近したことで陰陽の力で見えた。


それがどういうわけか、南光坊天海などと言う僧侶になり徳川家康に近づいたかは本人を起こして聞くしかないのだろう。


南光坊天海が消えてからようやく目を覚ます家康は、後頭部を痛そうに抑えていた。



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