第119話 年の瀬

安土城屋敷留守居役の慶次からの定期連絡で、織田信長の次男・伊勢神戸城城主、織田信孝を総大将とした信長三男・織田信雄・丹羽長秀の軍が四国の長宗我部元親を攻め滅ぼしたと連絡が入った。


織田信孝はそのまま、四国探題に就任し、銀閣寺城を築き上げた藤堂高虎が築城奉行となり伊予の今治に海城を築き始める。(信孝、今治城城主となる。)


信雄は伊勢一国を拝領し、伊勢守に就任、丹羽長秀は土佐一国を拝領し土佐守となった。


西日本は、いよいよ九州の島津だけを残し織田信長の天下統一・日本国全統一は目前、信長はなにかと忙しく、正月の安土城登城は不要と連絡がきた。


織田信長は、京の銀閣寺城で正月を迎えると言うこととなり、一度大津城に立ち寄り、お市様の顔を見ては上機嫌で入京していった。


翌日、俺は城で餅つきに興じている。


もちろん、お正月に神仏にお供えする為の餅、鏡餅だ。


と言っても、俺はひたすら見ている。


幸村が力持ち力を発揮し、ペッタンペッタンペッタンペッタン、勢いが良すぎて飛び散っている。


宗矩はなぜか無音で器用に餅を搗く、剣才の無駄遣い?


政道はへっぴり腰で危なっかしげに餅を搗く。


力丸は、その搗いている餅を相手にうまく息を合わせこね返していた、器用だ。


なぜに俺が搗かないかは単純、縁側の台で火鉢の炭火に当たって丸くなっている。


寒い、寒がりモード突入。


いや、冬眠モード全開。


桜子達が蒸しあげた餅米を次々に運んできては、力丸、幸村、宗矩、政道が餅を搗き、茶々達が丸く成型していた。


「マコ~、食べたいんでしょ?はい」


と、こっそりお初が餅をくれた。


お初は、俺と一緒で食欲旺盛わかっているな、可愛い妹だ。


・・・・・・。


搗きたての餅、醤油も、味噌も、きな粉も、擂り胡麻も砂糖も何もつけていない餅・・・・・・。


うん、米の甘さだけで素朴ですよね、香りは良いしプルップルに柔らかいのだけど、なんせ味が餅米本来の味だけ、

塩くらいはかけたい。


台所に行ってこっそりと醤油に砂糖を解いて小皿に入れて縁側に戻ると、お江が睨んでいた。


「もしかして、わかっちゃった?はははっ」


笑ってごまかそう。


「はははっ、はははっ、って、おい、待て、それは洒落にならん、お初落ち着け、やめろ~」


杵を大きく振りかぶったお初が追いかけてくる。


「食べたかったら自分で搗きなさいよね~」


はい、その通りだと思います。


最後の蒸しあげられた餅米を俺は一生懸命搗くと体も温まっていた。


忘れているだろうが俺は免許皆伝の腕はあるし、鍛錬の家臣との朝稽古はしている。


重い杵だろうが軽々と搗ける、ただ、寒くて縮こまりたいだけなのだ。


気候の良い季節なら、むしろ率先して搗きたいくらいなのだ。


俺が搗いた餅は、みんなで醤油砂糖で食べる。


搗きたての餅、美味し。


「御大将が搗いた餅をいただけるとは」


と、力丸達は嬉しがっているが、お初は、


「当然よね、働かぬ者食うべからずよ」


と、言っている。


よし、わかった、来年は広間にストーブを増設して餅つきをしよう。


ん?床が抜けそうだな、補強もしなくてはと考えた。


今年も、もうすぐ終わる。







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