第117話 だるま型ストーブ
赤く染まった紅葉も葉が落ち始め、朝晩の冷え込みが気になりだした頃、俺は囲炉裏テーブルの前で炭火にあたって毛皮のベストと言うか、陣羽織と言うのか着て丸くなっている。
茶々とお初は呆れ気味、お江は毛皮のさわり心地が良いのか、背中に頬を当ててスリスリしている。
「御大将、頼んでいたものを鍛冶師の元締めが運んできましたが」
と、小姓・秘書的に働いている政道が本丸の東御殿の門に来ていることを告げた。
「えっと、設置に大工さんも必要なんだけど大丈夫かな?」
「氏郷様に確認してみます」
と、政道がすぐに三ノ丸で作業をしていた大工を連れてくる。
政道に案内させ、庭側から回ってもらい俺の寝室の隣の10畳の居室に案内させる。
俺もそちらに回り、大八車に乗せられたストーブを見ると、無駄に龍などの彫りの装飾が入った黒光りする1メートル×50センチほどのだるまが横になった型で、猫足が6つ着いたストーブ、脇には小さな扉と上には取り外し可能な丸い蓋が2つ、まさにイメージ通り。
「殿様、いかがですけ?」
と、元締めが聞いていたので、俺は近づき手を握って、
「これだよ、これ、これが欲しかったんだよ、ありがとう」
と、言うと、
「もったいね~お言葉で、あっしなんぞの汚い手をとってくれて」
と、言う、確かに煤で黒く汚れ、火傷やマメで見た目はきれいではないが、間違いなく仕事をしている職人の手、汚いなどと思うはずもない。
「仕事をしている素晴らしい手じゃないですか」
と、握ると、
「ありがたや、ありがたや」
と、言われてしまった。
運んできた鍛冶師達と大工が設置を始める。
「殿様、試したんですが下がどうしても焦げてしまうので石敷かさせていただきます」
と、言って畳み一畳程を30センチ×30センチの厚さ5センチ程の石板を敷き詰めてその上にだるま型ストーブが置かれた。
むしろ、その石が温まって保温性があるのではと思う。
煙突は銅板で筒状に作られ、欄間をくり貫き外に出るようにしてもらった。
半日かけて設置が終るといよいよ火入れ。
自分でやりたかったが、うちのワイルドガール侍女の梅子が、
「御主人様にそんな事はさせられません」
と、言って乾燥した小枝を一掴みストーブに入れて、火を着けた。
パチパチ、と、程よく燃え始めた所に小さな薪を投入していく、
「お!良いね良いね、囲炉裏も悪くはないんだけど煙くてね」
火鉢は炭火で手ぐらいしか温められず、囲炉裏は煙く御殿には不向き。
食事をとる囲炉裏テーブルの天井は天井板はなく、梁(はり)丸見え煙り抜けは作られてはいるが煤だらけになっており、御殿には不向き。
そこで考えたのがこの鉄製のストーブ。
火が入れられストーブその物が熱くなりだし、煙が順調に煙突から外に流れる。
「マコ~暖かいね」
と、お江が喜ぶ。
「お江、火傷には注意してくれよ、うちには子供はお江ぐらいなんだから」
と、言うとお江は頬を膨らませ怒り顔。
「私、そんなに子供じゃないもん」
と、拗ねた。
確かに12歳の女の子を子供扱いは良くなかったか?しかし、火傷には気を付けないと。
「元締め、周りに囲いって作れます?」
「もちろん、作れますがうちは鍛冶屋でございます、鉄柵となりますと火傷防止にはなりません、熱くなりますから」
それもそうだ。
「私が作りましょう」
と、手伝ってくれた大工が言う。
木の柵だとストーブの熱で使用しているうちに炭化しそうだが、ないよりはまし、炭化すれば交換すれば良いかと思い頼む。
ストーブの周りには水の入った木桶をいざって時用に置いてもらい、水の入った茶釜をストーブに乗せ加湿もOK。
「よしよし、これで今年の冬は暖かく過ごせるぞ」
と、言うと、お初が、
「御主人様、冬はここに閉じ籠る気?冬眠?」
かぽーん。
「引きこもり城主生活」
「馬鹿じゃない」
と、脇腹にお初の拳が来た。
「痛い」
「城主様なのですから、見本になるように生活していただかねばなりません」
と、茶々が言う。
うん、うちの正妻と側室の姉妹は厳しい。
「マコ~怒られてる~怒られてる~はははははっ」
と、子供扱いして拗ねてたお江が俺が怒られてるのを喜んでた。
く~、悔しい。
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