第97話 織田信忠
銀閣寺で一夜を過ごし運ばれてきた朝食を食べ終えて、熊の毛皮にくるみながら外の景色を丸窓の障子をあけて楽しんでいると、坊丸が茶室にと呼んできた。
銀閣寺から玉砂利の道を五分ほど進むと、土壁に檜皮葺のこじんまりとした建物に案内された。
躙口から中に入ると見慣れた顔の、千宗易と面長のどことなく信長に似ている武将が座っていた。
二度ほど安土城内では顔は見ている武将は、織田信長嫡男、織田信忠である。
「常陸殿、一度ゆるりとお茶をと思いまして呼んだ次第にございます」
と、腰の低い挨拶がされる。
「あっ、はい、その、はい」
と、なんとも気の抜けた返事しかできない俺に信忠は俺が緊張していることを察したようだった。
「緊張なさらずに、なにも危害を加えるつもりなどありません、それに父上様との天下御免の約束は我々にも厳命されております」
と、言ってきた。
俺に危害を何人たりとも加えない、礼儀作法無礼の許しの許可を織田信長から貰っている。
茶室に入って座る。
先ずは一杯と千宗易が漆黒のぶ厚い茶碗で抹茶を点てた。
漆黒に生える黄緑色の目の細かな泡がこんもりとした茶は、かきまぜた時間もあったはずなのだろうが熱い。
おそらく、茶碗を温めていたのだろう、寒がりでここに来るまでに冷えた体を温めるのに出された茶は喉ごしが良く胃に入ると体が温まった。
飲み干したところで信忠が、
「なるほど、美味い物には正直だと言っている父上様の言葉がよくわかりました」
と、俺の顔を見て行った。
美味しそうに飲んでいたわけか?
と、茶菓子が目の前に出てきた。
見慣れた茶菓子を懐紙にとり、ボロボロとこぼれないようにして食べる。
「懐かしい、これ、カステラですよね」
と、言葉を言った。
「懐かしい?以前、どこで食べられました?」
と、聞かれた。
しまったか?やってしまったか?と、言葉に詰まり、パサパサのカステラが喉に詰まりそうになりせき込んだ。
すると、ぬるい茶が出された。
ごくりと飲み干すと。
「はははっ、少し意地悪が過ぎましたね、聞いていますぞ父上様から」
と、言う。
秘密や未来などとの言葉は出していないが、聞いているのだろう。
「全部聞いたのですか?」
「ああ、聞きました。で、常陸殿と仲良くしろと言われましてな」
仲良く?え?
ひょえーーーーーーーーーー。
と、ケツを抑えて後ずさりすると信忠は不思議そうな顔をしている。
「ああ、そういう事ではないから安心してください」
と、笑って言う。
先ほどから茶釜の前で真面目な顔をしている千宗易も笑っていた。
「茶々が我が義理の妹となりました。なので常陸殿は義兄弟、そういう仲良くしろての意味です」
と、言うので俺は座りなおした。
「信忠様、あなたが目指そうとするものは何です?」
と、俺は真面目な顔で聞く。
「父上様が目指しているものと一緒、日本を統一したのちは海の外に出で行きたい」
「それは、朝鮮や明を攻めるということですか?」
「大陸攻めですか?今はまだそこまでは考えてはいませんが」
と、言った。
「安定の平和国家をこの国に造る為なら協力は惜しみません、ただ、自分の野望だけで海外に遠征するなら話は別です」
と、答えると薄ら笑いをしながら話していた信忠の顔がするどす目つきに変わった。
「なるほど、考えておきましょう」
と、一言言ったのちにお茶を飲む。
「そういえば、父上様はこの正月に征夷大将軍宣下をお受けなさいます、私は右大臣右近衛大将に昇進します。そして、織田家の武力を格段に上げた常陸殿は中納言昇進です」
と、言って退室していった。
中納言、茨城県民なら皆が知っている官位、別名、黄門。
ん?となると、俺は常陸守だから常陸黄門なのか?大津城城主だから大津黄門なのか?
と、考える。
中納言か、なかなか良い出世街道まっしぐらじゃん。
お祖父様には「総理大臣になれ」と、言われて育ったが、総理大臣と言う官位官職はない、だったら大臣を目指すなら内大臣・右大臣・左大臣・太政大臣となる。
なれるかな?
そんなことを部屋に戻って考えていると除夜の鐘が聞こえてきていた。
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