第96話 上洛

 1584年晦日


寒風吹きつく京の都に五十の足軽を従えて上洛をする。


12月の京都は寒い。


俺の故郷、ここより北にある茨城県より寒い。


雪も風に乗ってちらついている。


今回、冬の旅と言うことで、真田昌幸から貰った熊の毛皮が大活躍、俺は熊の着ぐるみのごとく全身熊の毛皮で服を作ってもらいそれを着る、熊のコスプレイヤーみたいだ。


毛皮、黄色に染色出来ないかとアホなことを考えていたがどうやら流石に無理があるらしい。


黄色い熊、人気出るんだけどな。


毛皮は温かいのだが一つ誤算があった。


俺の乗る馬が怯える暴れる、俺が乗れるものではない。


しかたなく、茶々たちが使っている輿に乗る。


なんか、神社に奉納される熊の置物になった気分で入京。


道中、指を指され行きかう人々に笑わられる笑われる。


寒いものは仕方がないじゃんと、俺はすねた。


今日の着いてくる家老職の家臣は力丸と宗矩、幸村は城の留守居役とした。


茶々たちも城に残る。


三条街道を通り入京、銀閣寺近くの隆起した吉田山に造られた銀閣寺城が天智天皇陵を過ぎたころから天守が見えていた。


銀閣寺城は鴨川から水を引き石垣で作られた大きな堀を持つ平山城。


攻めにくく平時には政治の中枢となれる城となっていた。


天守は吉田山に鎮座する。


五層六階建て織田信長特有の望楼型天守、色形はシンプルに作られている。


シンプルに作られたのは早急に必要性があったからであろう。


煌びやかなものと言えば、天守に乗った、金の鯱瓦と受雷神槍と名付けられた避雷針が金で輝いている。


その城に入城しようとするとやはり俺は怪しまれる。


先頭の宗矩が門番に、黒坂実琴の行列であることは伝えているが輿に乗った熊の存在に門番が槍を向けた。


「城に熊を入れるなどと不埒なことを」


と、止められた。


ごめんなさい、寒くて頭から足まで熊の毛皮被ってますからそうとしか見えませんよね。


と、頭の毛皮を取ろうとすると、出迎えに現れた蘭丸が、


「無礼者、その者、そのお方が黒坂常陸守様本人なるぞ、えぇい控えよ」


と、門番を怒鳴る。


「ごめんなさいね、寒いの嫌いでこんななりで、蘭丸、そんなに怒らないであげてよ」


と、被っていた毛皮を取り挨拶をした。


「しかし、よくわかったね、俺だって」


と、言うと、うちの家臣と蘭丸は大きく笑った。


「ははははははっ、そんなかっこで登城する人なんて一人しかいませんからね、登城できる無謀さがあったとしても上様に怒られましょうぞ、しかし、黒坂様は天下御免のお約束がありますから」


そう、俺は信長に協力するのにあたって非礼御免が許されている。


だって、その約束なかったら絶対、無礼討ちされる自信あるもの。


「さっ、三の丸に宿舎が用意されておりますから、そちらへ」


と、案内された。


・・・・・・。


カポーンって頭の中で圧巻の驚きの音が鳴ったような気がした。


通されたのは、銀箔でまさに銀色の寺になっていた銀閣寺だった。


形なら修学旅行で見ているからほぼ間違いないはず。


「これ、銀閣寺だよね?」


「慈照寺でございましたが、上様が銀箔を貼られ銀閣寺としました、足利の世は終わりました」


「なるほど、信長様に出来ないことなどないというわけか」


平成では銀閣寺と呼ばれているが銀色ではないのは常識。


一般的に、銀箔が剥がれたやら銀を貼るだけのお金がなかったや、銀を貼ろうとしていたが室町幕府八代将軍足利義政が完成前に死んでしまった説がある寺。


その寺を信長は銀箔を貼って完成させた。


それは、足利という権威はなくなり、織田と言う新しい力の誇示であった。


中に入ると流石に中はごくごく普通の書院作りの原点というか質素な和室だった。


中の壁も銀箔だったらどうしようと少しハラハラしたが、落ち着いて寝れそうだ。


中まで銀箔が貼られていたら、昭和に存在したと噂に聞く壁全面鏡のラブホを想像したからの安堵。


昭和の人ってそんな部屋で眠れたのかが気になる。


だって、夜中絶対何か映りそうじゃん。


俺の寝所は四畳半、書院造の原点と言われる互い違いの飾り棚のある部屋で、寒いのを嫌う俺のために火鉢が四隅に置いてあり暖かくなっているが、一酸化炭素中毒を心配しなくても良いかのように隙間風は吹いていた。









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