第48話 安土城下街
気が付けば、この時代に来てほとんど城か屋敷で過ごしていた。
決して引きこもりと言うわけではないのだが、不便はなく、さしたる用もなかったので出る必要もなかった。
ただ最近いろいろ考える事も出来てしまったので、家と言うか屋敷に閉じこもっているのもなんかさらにウジウジと考えこんでしまって良くないと思い街に出てみる事にした。
御供として慶次が槍を持って、案内人は力丸だ。
城下に出ると周りの目が気になった。
城下は楽市楽座、海外のヨーロッパのバザールかのようにごった返している。
背の高い見た目の良い慶次を連れているから注目されているような気がしたが、どうも俺が目立つらしい。
俺は和装、着物ではない。
今井宗久か南蛮人だかに作らせたらしい俺がこの時代に来た時の服、学ランに形が似ている物が何着か用意されているのでそれを着ている。
その学ラン風の服に太刀を腰に差している。
今日はせっかく上杉景勝からいただいた合口拵えの太刀。
なんだか、幕末の会津の白虎隊のようないでたちになってしまっている。
学ランだけなら南蛮人もたまにすれ違っているから珍しくもないのだろうが、それが太刀を携えていると言うのはミスマッチなのだろう。
歩き周ってているだけで十二分に楽しめたが、せっかくなので今井宗久の店を訪ねてみた。
今井宗久の店は安土の街中では珍しく、瓦葺の屋敷と呼べる豪邸だった。
「ごめんください」
「へい、いらしゃいまし」
と、番頭らしき人物が対応してくれた。
「今井宗久殿はおいでですか?」
その言葉で俺を上から下までじっくり見る番頭。
そりゃそうだ、かなり怪しい身なりなのは自分でも理解している。
「店主になにか御用で?」
不審者を見る目で俺を見ながら言っている。
「えっと、申し遅れました。常陸守真琴と申します」
「申し訳ありませんでした。ひらにひらにご容赦ください、すぐに呼びます」
一応お得意様なのだろう名前だけでわかってもらえた。
すぐに出て来た今井宗久は慌てていたようで羽織の紐を縛りながら出て来た。
「あれま、ほんまに常陸様や、屋敷から出るなんて珍しいですね」
「ですね、ちょっと気晴らしに街をぶらぶらとしたくて」
「大したものは御座いませんが見て行って下さい」
と、いろいろな物が置いてある店を案内してくれた。
太刀、火縄銃、陶器、そして目に留まったのは枯れた植物。
そこに気になる物が嗅ぐわしていた。
「これは?」
「薬屋が置いて行った物なのですが異国の物で持て余しておりまして」
来て良かった。
そこにあったのは、この時代では薬として扱われているスパイス。
「今から言うのを可能な限りで良いので届けてもらえませんか?」
「常陸様の御注文でしたら南蛮船を走らせても買い求めてきますが」
「そこまではしなくて良いので」
と、クミン、コリアンダー、シナモン、タ-メリックなどなどを言ってみた。
「では、千宗易、津田宗及に命じましてすぐに届けさせます。しかし、このように薬を集めましてどこかお悪いのですか?」
「いたって健康ですよ、ただ久々に食べたくなったものが作れそうなので」
「これだけの南蛮の薬を入れた食べ物ですか?」
「うまく作れるかわかりませんがね」
何かに悩んだ時にには、料理をするのが一番。
食欲があるうちはまだまだ大丈夫。
そう自分に言い聞かせて帰路に着いた。
今井宗久、千宗易、津田宗及・・・茶道の創始者三人衆か、会う日が来るのかな?
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