第17話 敵襲

 安土城本丸は『天主』と『本丸御殿』と『御成御殿』で形成されている。


少し珍しいタイプの城で『天主』は織田信長の居住区、普通なら『本丸御殿』が住居区で『天守』には住まない。


『天主』と『天守』は、似て非なる物。


まぁ~日本史史上『天主』は安土城だけらしい。


天(てん)の主(ぬし)


織田信長らしいネーミング。


そうそう、織田信長がいろいろ日本史史上初めての人と言われる物事逸話があるが高層建築物に日本で初めて住んだのは織田信長が最初だって言われている。


高いところが好き?


バカと煙りはなんとやら?


バカと天才は紙一重?


そんな本丸は、本隊が出陣しているとはいえ守備兵は少数いる。


一応、俺は面通しはしてあるので捕まったりはしない。


昼間は、居住区な為か遠慮して庭には守備兵はいない。


夜は見回りしている足音が聞こえているが、今は幼女二人と俺の足音だけ、茶々は日陰の廊下に座り、力丸は庭に片膝を着いて控えている。


玉砂利の引き詰められた見事な枯山水の庭も子供にとっては遊び場でしかない。


芸術と呼べるような形の松も子供にとっては遊び木だった。


「ほ~ら、早く逃げないと捕まえて舐め舐めだぞ~」


「きゃはははは~やだ~きゃはははは」


「ふざけんなよ、誰が舐められるもんか」


お江は笑いながら逃げ、お初は怒りながら逃げていた。


それを追い回す俺。


犯罪者じゃないからね、遊びだよ、遊び。


そんな無邪気に遊ぶ場に緊張が走った。


ドシャッ

ドシャッ

ドシャッ

ドシャッ

ドシャッ


と、塀から玉砂利の上に飛び降りる人影、五人。


やつれたようすの男。

着ている甲冑はボロボロ傷だらけ、満身創痍に見える。


地面に降りたと思ったらすぐに抜刀した。


目の前で起きている現実を受け止められず俺は動きが止まった。


「このような所で遊んでるとは、童共、織田信長の縁者だな?」


「天主に火をかけようと思って忍び込んでみたら格好の餌食が」


「殿の御無念を晴らすのに血祭りにあげてやる」


「我らは明智光秀家臣、織田信長の縁者には死を」


「幼女~幼女~幼女~幼女~グフェフェフェフェ、グフェフェファフェ」


一人なんか変態混じってる?


その五人は動きが早く俺の前を離れて走っていた、お江とお初を捕まえて刀を首にあてた。


「大人しくしろよ~首、斬れちゃうぞ~」


「お江、お初!」


と、座っていた茶々が立ち上がったとき、


ドゥオン!


と、一発の火縄銃の音が聞こえた。


「ぐわぁぁぁぁぁぁ」


と、一人が倒れた後ろに大人の女性が火縄銃を抱えて立っていた。


「母上様」


そう、茶々が言ってるのが先か力丸が突進したのか先か、力丸がまだ刀を持って立っている四人に向かって走っていく。


怯んだ敵からお江とお初の手を引っ張り奪い返すと、一人が力丸に斬りかかり、背中を斬られた。


「力丸」


声は出せたが俺は動けなかった。


「黒坂様~これを使え~」


と、茶々が縁台に置いてあった俺の太刀を投げてきた。


受けとる俺。


「小童、やろうってぇ~のかい」


「幼女~幼女~グフェフェファフェ」


「やあやあ我こそは惟任日向守明智光秀が家臣~」


「斬る斬る斬る、皆殺し」


敵の声なんて俺には届いていなかった。


刀、太刀、抜くのか?抜いたら斬る?斬るしかないのか?


自問自答の世界に入り手にした太刀を見つめてしまった。




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