酔ひどれ日記

大川澂雄

或る卒業設計準備

 晝になり、目を覺ました私は時計を見て早速憂鬱な氣分である。夕方に研究室にてゼミがある。前囘、前々囘とサボタージュを決めたので、今日はゆかない譯にはゆくまい。しかし、其處で發表すべき建築圖面はまだ出來てゐない。

 ダラダラとしてゐる間に數時間が過ぎ、私は遂に支度を始める。MacBookを鞄に入れ、寮を出て研究室へ向かふ。

 途中、生協に寄り、模型材料を買ふ。生協のおばさんは既に顔見知りであるのだが、

「あらあら、最近は普通の髪型に戻つて仕舞つて。誰だか分からないわよ」

と云ふので、

「就活が終はつたらまた色々と試してみます」

と云つておいた。


 研究室では友人のU君が後輩達と模型を作つてゐた。和氣藹々とした雰圍氣である。

「澂雄氏は御手傳ひの後輩達はゐないのか」

と聞くので、

「一應ゐるのだがなかなか來ない」

と答へておいた。

 私の模型製作の手傳ひ班、通稱「大川師團」はサークル聯中の中の建築學科生で組織されてゐる。二年生は彼ら自身の課題で忙しく、卒業設計終了直前まで召集出來ない。從つて、主力は一、三年生であるが、一年生は何の音沙汰もない。無禮の極みである。後で自らの行ひに後悔することになるだらう。

 私は獨りで作業を開始した。MontBlancの萬年筆で以て昨日に描ひておいた外觀透視圖を手直ししたが、だうやら内觀透視圖も描かなければならないらしい。


 ゼミの時間になつたので、私は研究室を脱出し寮に戻つた。S.I氏がゐた。

 動劃を見ながらブツブツと獨り言である。彼はコンピューターを自分で組みたいらしい。しかしながら、貧困ゆゑに電氣とガスを止められ、毎日私の部屋に來てはスマートフォンを充電してゐるやうな、そんな奴には夢のまた夢、コンピューターの部品は高價な物も夛く、彼が納得する性能のコンピューターを組むには丗萬圓はかかるさうである。現在の彼には實現出來ないにしても、關聯の記事を讀んだり動劃を見たりするのが樂しいのだらう。分からぬでもない。


 飯を馳走する代はりに模型製作の手傳ひを御願ひすることになつた。三年生のS.H氏とR.H氏も來てくれることになつた。

 しかし其れでも豫定通りに作業は進まず。想定よりも時間がかかるやうである。特に階段を作るのは大變なやうである。私も圖面を完成させられなかつた。明日に持ち越しである。最惡の事態だ。

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