声優擬人化 ~VAクエスト~

夢遊貞丈

 気が付くと、ボクは見知らぬ街中に居た。

 目の前を過ぎ行く人々は、皆、〝戦士〟の様な装いをしている。

 大小、姿形、様々な剣を装備し、それぞれの目的地へと向かっている様だ。

「あ、あの」

 誰にでもなく、助けを求める様に声をかける。誰でもいい、とりあえずココがどこなのか、が知りたい。と、

「おう! お前は新入り……いや、なんだ、まあ、そうか! よし、なるほどな!」

 突然(いや、声をかけたのはボクだけれども)背が高く大柄で、筋肉質な男性に声をかけられる。また、一つも理解できないが、ボクを見て、何かを納得した様だった。

「お前、この世界の事が知りたいんだろ?」

 流石、何かを合点しているだけの事はある。ボクの聞きたい事を、あっさりと当ててくれた。

「はい。で、その、ココは……」

 恐縮しながらも、ボクは男性の質問に同意し、答えを求める。

「ここはな、〝声優〟が擬人化された世界だ。声優、分かるか?」

「えーと……」

 知っている。VAボイス・アクター、キャラクターに声を当てたり、ナレーションやアナウンス、その他、自らの声によって情報を伝える仕事をしている人の事だ。そういう人々の事だ。うん、ざっくりはしているが、ボクの認識が間違っていなければ、そんな〝人々〟の事の筈だ。

「理解したか?」

「いや、出来ると思います?! バカなんですかこの世界は?! まず、元々〝人〟でしょ、声優って!」

 男性のこれ以上無いほどの笑顔に、ボクは驚きと焦りを隠し切れずに叫んだ。ただ、男性のその言葉に嘘偽りが無い事が、何故かボクの中にスッと降りてきてしまっており、吐きだした言葉とは裏腹に、完全にこの世界の事を理解してしまった事が、より一層、ボクを混乱させた。

「声は剣。コイツを使って敵を撃つ。説明より、実戦を見せた方が早いだろ」

 そう言うと男性は、「ついてこい」と言い、ボクを先導しながらどこかへ向かう。辿り着いた先は、人々で賑わう、大きな建物だった。

「ここでクエストを受ける。受けたら、すぐに出発だ! さあ、好きなクエストを選びな!」

 男性は、意気揚々とボクへいくつかの〝クエスト〟の一覧を見せてきた。だが、正直、内容が理解できない。

「なんでもいいぞ! とっとと選べ!」

「そ、それじゃあ……」

 ボクは一覧の中から、注釈に「男性向けクエスト」と書いてある物を選んだ。説明してくれるのが目の前のこの〝男性〟なんだし、これが正解だと思った。が、

「お、おう……」

 え、何?

「はは、そうかそうか……それがいいのか、仕方がないよな、へへへ……」

 目の前の男性は、何故だかとても寂しそうな顔をしていた。何か間違っただろうか。

「オーケー、俺の案内はここまでだ! 待ってな、すぐに知り合いを呼んでくるからよ! 楽しかったぜ、お前との旅!」

「あ、ちょ、」

 親指を立て、微量、目に涙を浮かべつつ、男性はボクを残してどこかへと消えた。追う事さえ出来ない程の、一瞬の出来事だった。自らの過ちを顧みる事も出来ずに立ち尽くすボクの前に、今度は見知らぬ女性が現れる。

「やれやれ……」

 ため息混じりでボクの事を見るその女性は、出会って間もないボクへ向かい、

「君、割と鬼畜だね」

 そんな事を口にした。ええ、何、何?!

「『男性向けクエスト』、いわゆる、可愛い女の子達がキャッキャと戯れたり、女の子同士の友情を育んで行く様を描く、男性が喜びそうな感じに作られた作品の事だ」

 あ、

「アイツの様なゴツイ男の出る幕は、ほぼ無い」

 なるほど、そういう事……

「安心しなさい。私はそこそこのベテランだからね。それじゃあ改めて、クエストを受注して、出発しましょう」

 ありがとう、そしてさようなら、見ず知らずの男性……

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