擬人化 布団娘 ~人間を魅惑してならないのはお布団です~

すて

第1話 彼女は掛け布団!?

 平穏な眠りを破るアラームが鳴った。

「もう朝か……」

アキラは手探りで目覚まし時計を探り、アラームを止めた。

「あと五分……」

 スヌーズとか言う機能は凄く便利だ。アラームを止めてから五分経てばもう一度アラームを鳴らしてくれる。こんな素晴らしい機能を考えた人には称賛の拍手を送りたい。何しろ安心して二度寝が出来るのだから。彼は掛け布団を手繰り寄せ、また夢の世界へと旅立とうとした。

 布団の中で目を閉じればそこは彼だけのワンダーランドだ。可愛い女の子とのラブストーリーや隠された宝物を探す冒険譚が繰り広げられたり、世界を救う救世主にだってなれる。しかし現実は厳しい。あっという間に五分が経過し、無情にもまたアラームの音が鳴り響いた。

「今度こそ起きなきゃな……」

 今度はスヌーズでは無く、しっかりとアラームのスイッチをオフにして上体を起こしたアキラの目に映ったもの、それはベッド(もちろん彼のベッドだ)に横たわり、アキラの顔を見つめる一人の美少女だった。

 まだ夢の続きにいるのだろうか? 考えるアキラに彼女はにっこり微笑んだ。

「おはようアキラ君」

 彼女は彼の名を呼んだ。


――誰だ、この娘。俺の知り合いか? いや、知らんぞこんな娘。こんな可愛い娘、知ってたら忘れる訳が無いじゃないか。だとしたらこの娘は何者だ? ネコがベッドに潜り込んで、朝になったら女の子の姿になってたとか? いや、ウチはネコは飼ってない。生き別れの姉か妹? まさかな。百歩譲ってそうだったとしても、俺のベッドに入り込む訳が無かろう。じゃあいったい……? ――


 アキラは色々考えたが、答えなど出る訳が無い。彼にとって全く身に覚えの無い、降って湧いた様な状況なのだから。唯一の救いとしては、突然現れたのが可愛い女の子だという事だ。もし、これがムキムキのマッチョマンだったりしたらアキラは一生立ち直れないかもしれない。

 彼はあらためてその娘を良く見てみた。ふわっとした栗色の長い髪に大きな丸い目がとても可愛らしい。白いワンピースのパジャマに身を包んだ彼女は相変わらずにこにこしながらアキラを見ている。これって一夜を共にした女の子が男を見る目ってヤツなのか? 彼女居ない歴=年齢のアキラにはさっぱり解らないが、少なくとも好意的な目には見える。

「あの……誠に申し上げにくいんですが……あなた、誰ですか?」

 考えていても答えは一生出て来ないだろう。アキラは思い切って彼女に聞いてみた。すると彼女は少し悲しそうな目で答えた。

「私の事……わかりませんよね。毎日ぎゅってしてくれてるのに……」


――毎日ぎゅってしてる? 俺がこの可愛い娘を? そんなバカな。もし俺がそんな楽しい思いをしていたのなら忘れる訳が無い。そうか、ココは異世界だ。きっと寝ている間に俺は異世界に転生して、この娘の彼氏になっていたんだ――


などと言う中二病的な発想が頭を過ぎり、アキラは辺りを見回した。しかしそこは異世界でもサイバースペースでも無い、見慣れた彼の部屋でしかなかった。だが、一つだけ違和感が有った。もちろんこの娘が居る事自体が最大の違和感なのだが、それとは違う、彼女が居る代わりに有るべきモノが無かったのだ。

アキラが毎日の様にぎゅっとしていて、尚且つ俺の部屋から突然消えてしまったモノ。答えは出た。しかしその答えは口に出して言うのも憚られる恥ずかしいモノだった。

「君ってもしかして……」

「はい。アキラ君愛用の掛け布団です!」


 まさかこんな事になろうとは……それにしても何故掛け布団が女の子の姿に? アキラが反応に困っていると、彼女は妙な事を質問してきた。

「アキラ君、私をどれぐらい使ってくれてるか覚えてますか?」

そんな事聞かれても、いちいち布団を何年使ってるかなんて覚えてるヤツはそう居ないと思う。アキラがあやふやな記憶を辿って五年ぐらいかと答えると、彼女の顔がぱっと明るくなった。

「そう、もう五年になるんですよ。それでね……」

 彼女はそこまで言うと、もじもじしながら顔を赤らめた。

「昨日で丁度千回目だったんですよ。ぎゅってしてくれたの」


――だからか? 布団を千回抱き締めたらこーゆー事になるのか? 確かに俺には寝る時に布団を抱き締める癖がある。しかし、昔使ってた布団ではこんな事は無かったのに、何故この布団だけがこんな事に……って、はっ! ――


 アキラは恥ずかしい事実に気付いた。子供だった頃は単に布団を抱き締めて寝るだけだったのだが、中学生になり、性に目覚めてからは女の子の事を思いながら布団を抱き締めていたという事を。彼女以上に顔が赤く鳴ったアキラに彼女は優しく微笑みかけた。

「そんな顔しなくても大丈夫ですよ。男の子だもの、よくある話なんですから」


――うわぁ、思いっきり心を読まれてるよ……彼女はエスパーなのか? いや、彼女は全てお見通しなんだろうな。なんたってそれが彼女が現れた最大の要因なんだろうから。それにしてもこの娘、本当に可愛いなぁ――


 彼女の容姿はまさにアキラのストライクゾーンど真ん中というヤツだった。思わずじーっと彼女を見つめるアキラに彼女は恥ずかしそうに言った。

「やだなぁ、そんなに見ないで下さいよ……あっ、もしかして私、ドコか変ですか?」

 アキラの思いとは正反対の事を口走る彼女。どうやら彼女はエスパーでは無い様だ。

「いや、可愛いなって思って」

 アキラは素直な気持ちを口にした。ここで取り繕っても仕方が無いし、それ以上に彼女がどんな顔をするか見てみたかったのだ。

「えっ、可愛いだなんてそんな……」

 照れながら言う彼女を抱き締めたい衝動に駆られたアキラだったが、残念な事にそれを敢行する根性は無かった。千回も彼女を抱き締めている筈なのにおかしいな……って、それはそうだろう。今まで抱き締めていたのは単なる掛け布団、今、目の前に居るのは可愛い女の子なのだから。

 そうやってうだうだやっている間に時間は過ぎる。そろそろ部屋を出ないとマズい事になってしまう。マズい事とは? 学校に遅刻する事? うん、それも重要だがそれよりまずは目先の問題だ。早く朝食を食べに行かないと母親がアキラがまだ寝ていると思って部屋に入ってきてしまう。彼女を見たら母親は間違い無く息子が女の子を連れ込んだと誤解するだろうし、「この娘は俺の掛け布団だ」と説明したところで信じてもらえる訳が無い。こいつは困った。しかし考えていても時間は刻一刻と過ぎていく。とりあえずアキラは時間を稼ぐ為、彼女を部屋に残して部屋を出た。


「おはよう」

 母親に挨拶をすると、限りなくいつもと同じ調子で顔を洗い、朝食を済ませたアキラはそそくさと部屋に戻った。


 部屋のドアを開ける時、一つの思いがアキラの頭を過ぎってドアノブを持つ手が止まった。彼女はまだ居るのだろうか? もしかしたらもうただの掛け布団に戻ってしまっているかもしれない。それならそれでいつものの生活に戻るだけだが、せっかく可愛い女の子の姿になったんだ、やはり女の子の姿でいて欲しい。

 アキラがドキドキしながらドアを開けると彼女の姿は無く、ベッドの上には見慣れた掛け布団が広がっているだけだった。

「そんなもんだろうな。まあ、夢でも見たと思って諦めるか」

 アキラは呟きながら掛け布団を三つに畳んだ。彼は意外と几帳面な男の様だ。

 ベッドに背を向け、制服に着替えを始めるアキラの脳裏には、彼女の顔がチラついてしまって仕方が無い。着替えを終え、溜息を吐きながらカバンに手を伸ばした彼の耳に声が聞こえた。

「いってらっしゃい」

 女性の声だが母親の声では無い。振り返るとベッドの上で彼女が正座して微笑んでいた。

「布団に戻っちゃったのかと思ったよ」

 彼女が居てくれた事に安堵したアキラの口から思わず言葉が漏れた。彼女は微笑みを絶やさずに俺を諭す様に言った。

「早く行かないと遅刻するわよ」

 本当は学校なんか行ってる場合じゃ無いのだが、こんな笑顔で言われたら抗う事なんて出来る訳が無い。アキラは素直に頷くが、一つだけ気になる事を尋ねた。

「俺が学校に行ってる間、君はどうしてるの?」

 彼女は彼の質問の意味を理解したのだろう、穏やかな笑顔で答えた。

「大丈夫、ちゃんと待ってますよ。お布団の姿でね」

 彼女はアキラが学校に行っている間は布団に戻り、俺が帰ったら女の子の姿になる、つまり女の子の姿になるのはアキラの前だけだという事だ。それなら安心だ。彼が学校に行っている間に母親が部屋を掃除しに入っても大丈夫。アキラはカバンを手に部屋を出て、学校へと向かった。


「おうアキラ、おはよう」

 教室に入ったアキラに友人達から声がかかるが、アキラは心ここにあらずといった様子で生返事を返す。布団娘の事が気になって仕方が無いのだ。

「アキラ君どうしたの、具合でも悪いの?」

 アキラが密かに可愛いなと思っている隣の席のカオリが言うが、彼は言葉少なく首を横に振り、ぼーっとしている。いつもならカオリが一言話しかけると喜んで三倍ぐらいの言葉を返してくるアキラがだ。カオリは本当に心配になった。

「本当に大丈夫? 保健室に行った方が良いんじゃない?」

 そんなカオリの言葉にアキラは我に返り、いつもの様に話そうとするが、やはり調子が出ない。

授業が始まってもそわそわと落ち着かないアキラ。休み時間になろうが、昼休みとなり、友人と学食に行こうが彼の様子は変わらない。

「おいアキラ、お前マジでどーしたんよ」

 悪友のトモキがアキラの顔を覗き込むが、まさか「布団が女の子になったから早く帰りたい」などとはとても言えない。相変わらず生返事を返すばかりのアキラだった。


 やっと授業が終わり、ダッシュで家に帰ったアキラ。息をはずませながら部屋のドアを開けるとベッドの上には彼女が微笑んで……いなかった。綺麗に三つに畳まれた掛け布団がいつもの様に有るだけだった。

 失望のあまり肩を落としたアキラだったが、彼は彼女の言葉を思い出した。


『大丈夫、ちゃんと待ってますよ。お布団の姿でね』


 この掛け布団を彼女の姿にするには、さてどうすれば良いのだろう? 確か彼女は千回ぎゅっとしたから女の子の姿になったと言っていた。なら、やはりぎゅっとすれば良いのだろうか? アキラは掛け布団を手に取ると、思いっきり抱き締めた。

「アキラ君、おかえりなさい」

 彼女の声が聞こえた。気が付くとアキラは彼女と抱き合う形となり、彼の目の前に彼女の顔があった。

「うわっ!」

 さすがに彼女いない歴=年齢のアキラには刺激が強すぎた様で、彼は思わず声を上げ、手を離して飛び退いてしまった。

「『うわっ』はひどいな、『うわっ』は」

 笑いを堪えながら優しい目で言う彼女。アキラは笑顔で「ただいま」を言うが、続く言葉が出なかった。そんなアキラに彼女は優しく言った。

「今日は随分早かったんですね」

 アキラは普段トモキと連んで寄り道ばかりして晩ご飯ギリギリまで帰ってこないが今日はえらく早く帰ってきた。そこを突っ込んできた彼女だが、素直に「君と会いたいから早く帰って来た」などと言える訳が無い。顔を赤らめて彼女から目を逸らし、黙ってしまったアキラに彼女は意味ありげにクスッと笑った。

「早く着替えないとダメですよ」

 彼女の言葉に慌てて制服を脱ごうとするアキラだったが、ズボンのベルトに手をかけた時、動きが止まった。

「あっ、私が居ると恥ずかしいですか?」

 アキラの気持ちを察した彼女が言った。そう、いくら彼女が掛け布団だと解っていても今は女の子の姿なのだ。意識するなと言うのは無理な注文だ。アキラが躊躇いながら頷くと、彼女はすっと背を向けた。

 ほっとしたアキラが着替えを済ませ、「おまたせ」と声をかけると彼女は変わらぬ笑顔で振り向いた。その笑顔に吸い込まれる様にアキラはふらふらとベッドに向かって歩き出した。

「あれっ、お昼寝ですか?」

 彼女はベッドの端に移動し、アキラが横になるスペースを作った。アキラがそこに横たわると、彼女は大胆にも彼に覆いかぶさった。

「晩ご飯までには起きなきゃダメですよ。じゃあ、おやすみなさい」

 彼女の声がアキラの耳元で心地良い調べを奏でる。もちろん彼女がアキラに覆いかぶさったのは掛け布団としての役目を全うしようとしただけなのだが、眠れる訳など無い。身じろぎ一つ出来ないでいるアキラに彼女は不思議そうに言った。

「あれっ、今日はぎゅってしてくれないんですか?」

 そう言われても、今まで抱き締めていたのは布団だからだ。彼女が女の子の姿となってしまった今では抱き締めるなんて、彼女いない歴=年齢のアキラには非常に高いハードルだ。とは言え、彼女がそれを望んでいるのだ。アキラは緊張に手を震わせながら彼女の背中に手を回した。

「ふふっ、じゃあおやすみなさい」

 彼女は嬉しそうに言うが、眠れる訳が無い。目を閉じても彼女の顔がチラついてドキドキするばかり。彼女の甘い香りに蕩けそうに……ならなかった。彼女の香りは残念な事に若い男の汗の臭い、早い話がアキラの汗の臭いだったのだ。だが、そんな事は口が裂けても言えやしない。アキラは密かに思った。明日は布団を干してから学校に行こうと。


 翌朝、目覚ましの音で目覚めたアキラの目に彼女の笑顔が映った。

「おはよう、アキラ君。よく眠れた?」

「うん、もちろんだよ」

 彼女の質問に笑顔で答えたアキラだったが、もちろん嘘だ。夜も彼女と抱き合う様に寝ていたのだ。ドキドキしてほとんど眠れなかった。

 眠い目を擦りながらアキラは顔を洗い、朝食を済ませると部屋に戻った。彼女は掛け布団の姿に戻っている。彼は彼女がその姿でいるうちにさっさと着替えると、窓を開け、彼女を、否、掛け布団を抱え上げた。その途端、掛け布団は女の子の姿に変わり、アキラは彼女をお姫様抱っこする形となっていた。

「うわっ!」

 思わず声を上げて手を放しかけたアキラだったが、何とか思いとどまって彼女に耳打ちした。

「今日は君を干しておこうと思うから、布団に戻ってくれないかな」

 それを聞いた彼女は少し焦った顔になった。

「も……もしかして、私汗臭かった?」

 答えはイエスだが、さすがにそうだとは言えない。

「ううん。ただ、最近布団干してなかったからね」

 誤魔化す様に言うと、布団の姿に戻った彼女をベランダに干し、母親に適当な時間に取り入れてくれる様頼むと学校へと向かった。


 この日も授業が終わり、トモキの誘いを蹴飛ばしてアキラは家へと急いだ。部屋に入るとベッドの上には母親が取り入れてくれた掛け布団が畳まれている。それは一目見て解るほど太陽の光を浴びてふっくらとしている。早速抱き締めると、掛け布団は女の子の姿となった。いつもよりふんわりした抱き心地で、髪からはお日様の匂いがする。

「アキラ君、お帰りなさい。どう、気持ち良い?」

 言いながら笑う彼女は胸やお尻が良い感じに大きくなって、アキラは目のやり場に困ってしまった。

「うん、気持ち良いね。じゃあ、今日も昼寝しようかな」

 言うとアキラはそのまま仰向けにベッドに寝転んだ。

「何か、軽くなったね」

「アキラ君が干してくれたからかな」

 アキラの言葉に嬉しそうに答える彼女。まるで馬鹿ップルの様な会話だった。


 アキラにとって幸せな日々は続いた。しかし、それとは逆に彼はトモキを始め友人達から『付き合いの悪いヤツ』と思われ始めていた。

 ある日、アキラがいつもの様に学校からさっさと帰ってきて掛け布団を抱き締めると、女の子の姿となった掛け布団はいつもの笑顔では無かった。

「アキラ君……学校から帰ってくるのが凄く早くなったんだけど、お友達と上手くいって無いの?」

 心配そうな彼女の声。しかしアキラは笑顔で答えた。

「別に良いんだよ。俺には君が居てくれれば」

 それは彼女にとって嬉しいと共に辛い言葉だった。アキラは友人と遊ぶより、自分と居たいと言ってくれている。しかし、人間と布団は結ばれる事は無い。布団の役目はあくまでも持ち主の安眠、ひいては健康な生活を送ってもらう事にあるのだ。今の自分は持ち主を不健康な生活へと陥らせてしまっているのだと。彼女は決意した。

「良いですかアキラ君、よく聞いて下さいね」

 彼女はその思いをアキラに話した。

「だから、私がこの姿で居られるのは今日が最後です。私なんかより、お友達といっぱい遊んで、可愛い彼女なんかも作って下さいね」

 最後に言うと彼女は掛け布団の姿に戻ってしまった。それからは何度抱き締めても掛け布団は二度と彼女にはならなかった。


 彼女を失って失意の底に叩きつけられたアキラは数日の間『心ここにあらず』どころか『魂が抜けた様』だった。付き合いの悪いヤツと思い始めていたトモキもさすがに心配になった様で、アキラに声をかけた。

「おいアキラ。お前最近変だと思ってたが、ここのところマジでおかしいぞ。いったい何があったんだ?」

 トモキの言葉にアキラはぼーっとした頭で答えを探した。


――何があった……掛け布団が女の子の姿になって……俺はその娘に夢中になっちまって……その娘は消えちまったんだ……――


 溜息と共にアキラの目から涙が溢れた。と同時に彼は彼女の最後の言葉を思い出した。


『私なんかより、お友達といっぱい遊んで、可愛い彼女なんかも作って下さいね』


 アキラは心から霧が晴れた様な気がした。

「そうだ、彼女は俺を夢から現実に戻す為に消えたんだ。いつまでも落ち込んでいたら彼女を悲しませちまう」

 呟いてアキラは顔を上げた。その呟きが聞こえたのだろう、トモキがニヤっと笑った。

「なんだ、女かよ。そっか、どこぞの女に入れあげてたが、結局振られたって訳か。まあ、しゃあねぇな。また俺達と遊ぼうぜ」

 トモキはアキラの肩に腕を回して立たせると友人達の輪に入って皆に言った。

「アキラのヤツ、女に振られたんだってよ。ここんトコ、様子がおかしいと思ってたらそーゆー事だったんだ。女絡みじゃ付き合い悪くなってもしゃあねぇわな」

 それを聞いた友人達は笑いながら口々に返した。

「なんだ、やっぱそーゆーコトかよ」

「一人で良い思いしようとすっからそーゆーコトになるんだよ」

「上手くいってたら俺達にもその娘の友達紹介してくれるつもりだったんだよな?」

 笑顔でアキラを迎えてくれた友人達にアキラにも笑顔が戻った。

「ああ、すまねぇ。悪かったよ」

 素直に謝りながらアキラは本当の事を話そうかどうか考えた。だが、話したところで誰も信じてはくれまい。


『知らぬが仏』という言葉もある事だし、ここのところは『黙して語らず』というヤツで行こう。その代わり、本当に女の子と上手くいったら、その友達とコイツ等で仲良くやっていこう。彼女がそう望んだ様に。


 そう考えたアキラの瞼の奥で彼女が嬉しそうに微笑んだ。


                                    了

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擬人化 布団娘 ~人間を魅惑してならないのはお布団です~ すて @steppenwolf

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