聖域都市その1:前編


 この大陸における、人語を理解しているという意味での人は、大きく4つのいわゆる『種族』にまとめられる。

 1つは我々がいうところの地球に住んでいた人類、この世界でいうところの『来訪者ビジター』。由来は、実際に様々な方法(いわゆる神隠しと呼ばれる現象は、この大陸に『呼ばれた』ことによると考えられるし、今では自力で時間や距離を越える手段もある)で、来たことによる。

 もう1つは、この大陸に元々住んでいた『猫』と呼ばれる獣人で、頭が我々の知る猫であること、及び彼らが自ら名乗っていたことが名前の由来である。

 3つ目に、人と猫が交わることで生まれた『耳付き』。彼らは頭に猫耳が付いたり、目がいわゆる猫目になるといった特徴がある。猫耳が付く場合が多く、それが名前の由来にもなっている。

 最後に『刻人タイマー』。人と猫の子供の中で耳付き以外にまれに生まれる種族で、彼らがある一定の年齢に達すると、外見が年をとらないように見えることから、そう呼ばれるようになった。とはいうものの、その一定の年齢は30後半から50代にかけてのことが多い(中には10代で年をとらない例や、他の種族のように老いる例も確認されている)。

 やっかいなことに外見だけでは、刻人と普通の人や猫、耳付きを区別することは難しい。刻人は白髪になることが多く、それが彼らの特徴であるとはいえるが、別に白髪にならなくても刻人であることもあるため、それが絶対というわけではない。

 さて、最近になって『第5の種族』が生まれたという、研究者の報告がある。

 彼らは、外見こそ上記4種族であるが、超能力とも魔法ともつかない特殊な力を発現するという。

 まだ種族と呼べるほどの人数が確認されていないため、名前はなく上記4種族の中に彼らがいるという現状である。


「ニューラグーン警察のものですが、入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、はいどうぞ」

と、ニューラグーン市街にある『ストッゲート』という小さなホテル(来訪者であるオーナー言うところの『旅館』)の一室に入った亜季は、部屋の惨状を見て、かるく首をかしげた。

「あ、検死官さん、状況はどうなっているのでありますか?」

「うん、そうかそうか」

「あのう……」

「どうした?」

 鬼太郎のような髪形の検死官が、ようやく亜季に気づいたように、そう返す。

「ふう、やっとこちらの話も聞いてもらえるでありますか。この部屋の状況を教えてほしいんですよ」

「ああ、そんなことか」

「そんなこと……」

「被害者は、キーティングとかいう州議員。脳天にじゅうだんを一発ぶちこまれてるのが、死因だな」

「なるほど」

と、亜季は軽くうなずく。

 その時、制服警官が、大声で、彼女の名前を呼んだ。

「阿武隈捜査官!」

「にゃ、なんです?」

 猫耳を立たせながら、亜季は制服警官にそう返す。

「被害者の奥さんが、支庁に来たそうです」

「うん、わかった」

「それが……」


「キーティング夫人、その」

「なんです?」

 キーティング夫人は口ごもる係長を見て、キョトンという感じの表情をしながら、たずねた。

 キーティング夫人は白髪で、幼さと老成した雰囲気を漂わせているきれいなひとだった。

「貴女はつまり……」

「ええ」

と、キーティング夫人が微笑みながら語る。

「マジかよ……」

 同席していた崇は、唖然とした顔で、そう呟いた。

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