悪夢祓い倶楽部☆タイマーズ

えーきち

プロローグ

プロローグ

 後方二回宙返り一回ひねり……ムーンサルト。


 車の一台も通っていない、大通り三車線の道路わき。

 雲一つない青空をバックに、大きく宙を舞う夢ヶ咲ゆめがさきさんを見あげ、ボクは不覚にも『キレイだ』なんて思ってしまった。


 赤いジャケットと、これまた赤いヒラヒラのミニスカート。革製の白いグローブに、同じく白いロングブーツ。風になびく一本三つ編みの長い髪。そして、白い薄手のマフラーと、ミラー加工されたゴーグル。

 まるで、チンドン屋みたいな格好なのに。


 夢ヶ咲さんは、尻もちをつくボクの前にヒラリと舞いおりる。そして、真っ直ぐボクを見おろし、守るように大きく両腕を広げた。

 夢ヶ咲さんの背後から迫りくる巨大なアリ。

 まるで暴走ダンプカー。


 夢ヶ咲さんは動かない。


 アリは触角を前後左右に大きく揺らし、アスファルトを鉄パイプのような足で砕きながら、ハチの巣状の複眼を怪しく光らせる。そして、その太い足一本を、夢ヶ咲さんの頭に向かって、もの凄い勢いで振りおろした。


 ブンッ!


 空気を切り裂く激しい音が耳を刺す。


 危ないっ!


 ギュッと固く目を閉じて、両手で頭を隠すボクの声は、音になって口から出ることはなかった。


 静かだった。

 アリが動く気配も感じなければ、夢ヶ咲さんの断末魔の叫びも聞こえない。耳に流れてくるのは、柔らかいそよ風に揺れる、街路樹の葉っぱの音だけだった。

 街路樹に抱きつく格好で、恐々と薄目をあけるボク。次の瞬間、その信じられない光景を前に、我が目を疑った。


 巨大なアリに背を向けたまま、その黒く鋭い足を、華奢な手一本で軽々と受け止める夢ヶ咲さん。足元はアスファルトにめり込んでいる。

 アングリと口をあけるボクに向かって、夢ヶ咲さんは空いたもう一方の手をボクに差しのべる。


「ワタクシは考えて戦いなさいと言ったわよ? アナタなら、もっと簡単にコイツを倒せるんじゃなくて?」


 考える? 考えれば考えるほど、なお思う。

 どうして、こんなことになっちゃったんだろう?


 それは、 昨日……正確には四十時間ほど前の出来事が始まりだった。

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