2ページ
「あら、お客様?」
メインの道を曲がって店の方へ身体を向けると、扉の前に一つの影。そのシルエットを見てピンとくる。
――――なんでここに?
「開店時間にはまだ早いけれど」
独り言のように零したリンの声に気付いたのか、彼女はその長い髪を揺らしながら振り返った。その顔は、逆光になっていてどんな表情をしているのか良く分からない。
「こんにちは、志麻ちゃん」
「・・・こんにちは」
「こんにちは。あら、とっても可愛い子」
小さく頭を下げた志麻に、リンは小走りに近づいて無邪気に言った。志麻も背の高い方だと思っていたけれど、男の身長のリンと並ぶとそれなりに小さく見えた。
「どうしたの、こんな時間に」
開店時間にはまだ早い。学校帰りに寄ったのだろうか。
「もう、お店に来ているかと、思って」
志麻は誰とも視線を合わさないように遠くを見て答えた。何度も店に顔を出してはいるけれど、こんな時間に来たのは本当に初めてだ。
「あの、ごめんなさい、帰るわ」
リンを振り切るようにして志麻が一歩を踏み出す。つい反射的に足が動いた。
カシャン。
「あ」
「やだ、そうちゃんったら。大事にしてよね、もう」
そう言ってリンがひょいっと落としてしまった鍵を拾う。どうして、なんて。
「志麻ちゃんっ」
去り際に『ごめんなさい』と小さな声を落として志麻は去って行った。
誤解された? いいじゃないか、そうだとしても。俺と彼女には何もないのだから。
「どうしたの?」
「なんでもない。で、ここまでついて来て何の用」
「今日は暇なのよ~開店準備手伝うからコーヒー入れて」
「・・・はぁ、しゃーねぇな」
まぁこれも、いつものことか。なんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます