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「あら、お客様?」

 メインの道を曲がって店の方へ身体を向けると、扉の前に一つの影。そのシルエットを見てピンとくる。

――――なんでここに?

「開店時間にはまだ早いけれど」

 独り言のように零したリンの声に気付いたのか、彼女はその長い髪を揺らしながら振り返った。その顔は、逆光になっていてどんな表情をしているのか良く分からない。

「こんにちは、志麻ちゃん」

「・・・こんにちは」

「こんにちは。あら、とっても可愛い子」

 小さく頭を下げた志麻に、リンは小走りに近づいて無邪気に言った。志麻も背の高い方だと思っていたけれど、男の身長のリンと並ぶとそれなりに小さく見えた。

「どうしたの、こんな時間に」

 開店時間にはまだ早い。学校帰りに寄ったのだろうか。

「もう、お店に来ているかと、思って」

 志麻は誰とも視線を合わさないように遠くを見て答えた。何度も店に顔を出してはいるけれど、こんな時間に来たのは本当に初めてだ。

「あの、ごめんなさい、帰るわ」

 リンを振り切るようにして志麻が一歩を踏み出す。つい反射的に足が動いた。

 カシャン。

「あ」

「やだ、そうちゃんったら。大事にしてよね、もう」

 そう言ってリンがひょいっと落としてしまった鍵を拾う。どうして、なんて。

「志麻ちゃんっ」

 去り際に『ごめんなさい』と小さな声を落として志麻は去って行った。

 誤解された? いいじゃないか、そうだとしても。俺と彼女には何もないのだから。

「どうしたの?」

「なんでもない。で、ここまでついて来て何の用」

「今日は暇なのよ~開店準備手伝うからコーヒー入れて」

「・・・はぁ、しゃーねぇな」

 まぁこれも、いつものことか。なんて。

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