27 占いよりもたちが悪い
「欲深な
「だから、それっ! どういう、意味だってんだァ!!」
「我がそうであったように、欲深な
「な、に!?」
「言ってなかったカ。我は元人間、だからこそわかル。王里よ、この狭き島国の外を知らぬものヨ。世界は果てしなく広く、脅威に満ちあふれていル。いままでは初代様が守ってきた鬼札はいなくなっタ。それによって様々な悪意ある意図が巡るであろウ」
おめェの言葉はいつも抽象的でよくわかんねェんだよ!! と心の奥で叫びながら容赦なく襲いかかってくる刀にいつしか本当に防戦のみを強いられるようになっていた。いままでは反撃しようとすればできた。しかしいつの間にかシロクのペースにのせられていて、しかも決して広いとは言えない店内だ。防ぐので精一杯という王里の剣に失望を抱いた顔をしたシロクに。
王里は決断した。この世のすべての苦渋を呑みこんだような顔をして、それを決定した。すべては王里のため、命を差し出す友のために。妖刀・赤緋紅に命じていた無意識をやめる。
途端に命を吹き返したみたいに王里から一発、下から上に向かっての袈裟斬りが入る。とっさによけたシロクだったが、はらりと数本銀色の髪が宙を舞った。
それに驚いたように口を開いたシロクはひどく嬉しそうに自らの刀に怪奇を纏わせた。鈍く青く光る刀身と同じように、無言で王里も妖刀・赤緋紅に怪気を纏わせる。妖刀・赤緋紅の赤い刃が青い刃とは対照的で、こんな場でもなければ美しかった。一時、斬り合いが止まる。
「やっとその気になったカ。王里」
「……こんなことしたくねェんだよ、本当は。でも、おめェの気持ちも汲んでやりてェ」
「なラ!!」
「でも、それでも!! それでもこれは違げェんだ!」
「……我が心を汲んではくれぬのか、友ヨ。ならばよイ。その命、ここでもらい受けるまデ」
斬るために、殺すために放たれた刃だった。斬撃につぐ斬撃。息をつく暇すら与えずに、王里をシロクは攻撃し続けた。会話など、到底できるはずもない。
でもいなし、斬り結ぶたびに王里は心の底からふつふつとわき上がる怒りとは違う熱い「力」をため込んでいた。その力がどんなものなのかを本能が知っていた。
横薙ぎしてくるシロクを斜めに妖刀・赤緋紅で受け止め、たいして広くはない店の中。勢いを殺すために後方へと下がりながら両足を大きく開いて耐える。今度は上から振り下ろされるそれをシロクの刀の斜め横へと跳んで一旦床に妖刀・赤緋紅を握っている以外の手足をつくと間をおかずに振り返り。
とん。
帯の間に挟まれた十手を床についていた方の手で引き抜き握り。無防備にさらされたシロクの背へと突きつけた。そこから胸にふつふつとわき上がる熱い「力」を流すために。
『ねえ、ボクの半身。大事なのは想うことだよ』
心の中で優しい声がする。それだけで全身をめぐり、煮え滾った『力』に支配されそうだった王里の心がすっと落ち着く。春風そよぐ草原に立っているかのように心地いい声で、とくんとくんと2人分の鼓動が重なる。
ああ、初代に、祖父に教えてもらった言葉だ。でもそれはいま、王里2人の願いだ。
『相手を、シロクを強く許してね』
『あァ、任せろ』
『その代わり、制御は任せてくれていいからねー』
『? ……おゥ』
シロクは身動ぎひとつしない。ぶらんと刀を持った方の手すら下げて、全身の力を抜いているようだった。後はどうにでもしてくれと言わんばかりに、目をつぶっている。
背中をとられた時点で勝敗は決まっている。シロクは負けたのだ、王里に。そして王里の十手の先端らしきものを背に感じるいま。その熱い「力」が、やがてその熱い「力」が黒い炎となってこの身を焼き尽くすであろうこともわかる。その力を、間近で何度も見てきたシロクにはそれがなにかわかる。そして、それがよっぽどの熟練者でなければ制御できない代物であることを知っている。だから10年前の悲劇は起こったのだ。それでも。
(……我を許してくれるのか、一度は刃を向けた相手ヲ。王里よ、我が友ヨ。最期の友が、お前でよかっタ)
輪廻転生を信じるならばまた、共に遊んでみたいものダ。
王里が幼き日、悪戯をしては一緒に姐さんに怒られていたことを思いだしてふと唇を緩めて。穏やかな表情のまま。
怪奇、魍魎の長・シロクは黒い炎に包まれてこの世界から消え去ったのだった。
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