天使の黙示録

田中琴音

Ⅰ. ハジマリ

001. 終焉

 AM 00:00


 窓の外から、鉄門扉が開かれるような薄気味悪い音が聞こえた。

 身が奮い立つほど不気味な音の正体が、世界の終焉を告げる音アポカリプティックサウンドだと気付いたのは、自宅の扉を開いた後だった。


 駅に取り付けられていた時計は全て止まっている。

 そして、コンクリートの破片が空に浮かぶ黒い炎の球体に吸い込まれていく様を傍らで眺めていた。

 ――世界の終わり。

 全ての人の“願望”を叶えた歴史の終わり。雲を突き抜けるように聳え立っていたビルは倒壊し、窓ガラスの破片や地割れを起こした大地は空に出現した黒い炎の球体へと吸い込まれていく。

 まるで、空が世界を吸い上げているようにも思える光景。

 歴史には終わりがあり、それが今なのだろう。人類が積み上げてきた歴史なんていうのはちっぽけなものである。


「うっ……!?」


 何かに足を引っかけて転んだ先にあったのは、積み重ねられたいくつもの人間の屍。その死体はどれもこれも気味悪いほど幸せそうな笑いを浮かべていた。

 空を見上げると、真っ赤に染まった空に七人の天使が金色に輝くラッパを持ちながら飛んでいる。まるで、地上にある全てのものを見下すかのように、天使は空高く舞い上がっていく。


「キケ、愚カナ人間共ヨ。時ハ満チタ。ソナタラヲ終焉ヘト誘オウ」

 

 天使が持っていた七つのラッパが同時に甲高い音を鳴らす。

 さっきと同様の音が大地に轟き、地面を揺らした。と、同時に地上は霧のように消えた。もちろん、俺――蓮見潤(はすみ・じゅん)も例外なく命を落とした。

 いや、天に戻ったというべきだろうか……。


 死ぬ間際、俺は思わずギョッとするような酷く奇妙な光景を見た。

 七人いた内の一人の天使が俺をジッと見つめ、こう呟いたのだ。


「マタネ」

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