蛇の嫁

サーモン花子

第1話蛇

昔、昔。

或る処に、バジールという大きな男が居ました。

バジールは、早くに親を失っており、小さい頃から誰に頼る事なく一人で畑を耕し生活して居ました。

バジールは産まれながらに顔に大きな痣があり、下顎が大きく横にズレています。

よって、うまく発音できず話す事が苦手でした。また、顔の変形のせいで昔から人に見られる事が苦手でした。


たまに、街に出ては自分の育てた野菜や飼っている鶏の産んだ卵などを売るのですが顔を見られたくないので、顔に布を沢山巻き隠してから出かけていました。

バジールは、自分の育てた野菜や卵を美味しそうだと言って買って貰えるのが幸せでした。

また、街に売りに出た日は、売れ残った野菜や卵は、こっそり孤児施設に置いて帰ったりしていました。

バジールは、自分が作った物が人に喜びを与えているのを見るのが何よりも幸せでした。

こんな醜い私でも誰かに喜んで貰える。

それが、バジールの生き甲斐でした。


バジールが、街へ出た或る日、

帰りの道でした。身なりのいい少年達が一匹の蛇を細い劔で突き回しているのをみかけました。

少年達は皆身なりが良く、劔も小振りながらも細工が細かく宝石がきらきらと煌めいていました。

貴族の息子達というのは見て明らかでした。

蛇は、白い鱗に赤い目の小さく細い体で、何度も鋭い刃先で突かれたのでしょう。逃げながら血を流していました。

バジールは、蛇を助けたいと思い少年達の前へ出て行きました。

膝を着き懇願する様に言いました。

『この蛇を痛めつけるのはおやめいただけないだろうか?』

少年達は急に割って入ってきた大男に驚きました。

しかし、すぐに毅然とした態度になりバジールに言いました。

『この蛇は毒蛇だ。街の人間が噛まれたら大変だから殺してやるんだ。』

バジールは言いました。

『ならばこんなに弱るまで痛めつけるのは可哀想です。ひとおもいに。。』

少年の刃先がバジール顔の横を掠めました。

『お前。誰に口を聞いている?』

バジールの顔から巻いていた布がパラリと地面に落ちました。

少年達はその顔を見て息を呑みました。

『何と醜い顔だ。そんな顔で街に出られては迷惑だ。その毒蛇と共に処罰してやる。』

少年達は皆それぞれに劔を鞘から引き抜きました。

驚いたバジールは、慌てて弱った蛇を野菜籠に入れて走って逃げました。

逃げる際に大きなバジールの体が少年の一人に当たってしまい、突き飛ばしてしまいました。

きらきらと鋭い刃先を向けて追っかけてくる少年達。

バジールは必死になって逃げました。


何とか逃げ切り、家に着き野菜籠を開けるとぐったりした蛇が居ました。

『何て事だい。私が籠を振り回して逃げたから傷が広がってしまった。蛇よ。申し訳ない。』

蛇は少し頭をもたげると言いました。

『何を仰います。助けていただきありがとうございます。お礼をしたいのですが、私は毒蛇です。貴方様に出来るお礼がないのです。』

『お礼なんて要りません。傷が癒えるまでここに居なさい。良くなったら自分の場所へ帰りなさい。』

蛇は静かにうなづきました。




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