灰よ、挽歌を唄え。

うみぜり@水底で眠る。

関所、斯くや渡りて。

「まぁ、ここは一つどうか、これで御勘弁を」

 

 草臥れたローブを身に纏った、黄色人種の爺はそう笑って、役人の懐に軍票を放り込んだ。昨今、西方諸国の貨幣は貴金属の含有率が年々減っているために信用低下が著しく、貨幣として信頼されているのは専ら、連合軍が暴力で持って効力を保証する軍票である。紙幣にも関わらず、軍票が下手な金貨よりも信用があるというのは、今のこの西方諸国の現状を物語るに余りあると言える。

 軍票を受け取った役人共は、あっという間にニヤけ面になって、碌に荷物も確認しないまま、関所の門を開けた。賄賂の横行もまた、この関所に限った話ではない。

 老人と共に馬車に乗り、関所を通りながら、赤髪の少女……灰の魔女は、強かに溜息を吐いた。

 

「何か言いたげだな、魔女」

 

 関所を離れ、役人共が小銃片手の軍票勘定に躍起になっているのを確認してから、老人はそう声を掛けた。

 先ほどの媚び諂った、弱々しい眉雪の面影は、微塵もない。

 だが、魔女はそれすらも面倒だと言わんがばかりに眉を顰めて、唾棄するように呟く。

 

「別に。故国ながら、情けない有様だと思っただけの事よ」

 

 そして、親の仇を見るように老人を睨みつけて。

 

「帝国人でも、平気で関を通すのだからな」 

 

 そう、吐き捨てた。 

 

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