スモーカーストーカー
枯れ井戸
煙はついてくる
平日ランチタイムのファミレスは、今日も店の半分、喫煙席だけが混んでいた。
理由は簡単、ここが唯一この辺で喫煙席を備えているファミレスだから。
しかしここで出てくる飯はお世辞にも美味いとは言えないから人々はここをドリンクバーのついてる灰皿とでも思っているのだろう。
俺もその一人だから、馬鹿にはできないのだが。
「いくら喫煙者が時代遅れと言えど趣味の悪いもんだと思わないのか?」
座席の対面には誰も座っていない。
机の上に置かれたスマートフォンが声に反応してディスプレイに光が戻る。
表示されたのはいわゆる深夜アニメ的な、ナース服を着た女の子の3Dモデルだった。
「私は喫煙者ではありませんし、人間でもありませんから、あなたの考えはわかりません。ですがあなたのように趣味が悪いと感じるような人がいるのであれば、この取り組みは成功といえるのではないでしょうか」
百点満点の答えだと思うが、発展途上のAIらしくつまらない、テンプレートな答えだった。
灰皿にぐりぐりと煙草を押し当てて火を消す。
「……そのとおりだな」
口ではそう言いつつもう一本、箱から煙草を取り出すと、スマートフォンが震える。
それはメールでも電話でもなくて
『 禁煙促進プログラム
ここまで聞いて俺は火をつけかけた煙草を箱に戻した。
すると抑揚のない機会音声は消える。
本当に、この取り組みは大成功だ。
禁煙促進簡易型AI『 tabako』と呼ばれるそれは、日本という国が僅かに残った喫煙者を駆逐でもしようとしたのだろうという程に強烈なものだった。
煙草の箱一つ一つにICチップが埋め込まれ、それを介して購入者の携帯端末に強制的に通信。
携帯端末には簡素なものだが人工知能、つまりAIが送り込まれ、煙草を取り出す度にさっきのようにかわいい女の子の姿で禁煙を促進してくる。
まぁそれだけならまだやかましいだけだからいいのだが、このシステムには意地悪なところがある。
それはAIが使い捨てというところだ。
つまり、一箱二十本を吸い終わると画面の中の女の子は煙みたいに消えてしまうのだ。
その瞬間といったら煙草の味なんて忘れるくらいに後味が悪い。
しかしいくら後味が悪くたってこんな一種の子供だましみたいな手段で喫煙者が減るのか。なんて議論は死ぬほどされたらしい。
それがびっくり実際、減ったのだ。
それも信じられないくらいに。
具体的に言うと半年で四割減ったのだ。
「吸わないんですか」
「アンタが黙ってくれたら気兼ねなく吸えたんだけど」
「そういうプログラムですので」
俺がまだ幼かったころは人間と会話をできるAIなんてロクにいなかったのに、昨今では皮肉を理解できるくらいには進化している。
科学の発展とはすばらしいものである。
だけどこんな方向に発展させるのは間違っている。そう思うのは俺だけだろうか。
残りの煙草はあと七本。
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