第八話全て解決できますか?

 やっぱり百合は素晴らしいな。

 俺としては、……片方が完全に攻めで、もう片方が嫌そうにしながらも満更じゃないという攻守が分かれているのが特に好きっ。

 両者攻撃も胸躍る。けれど、いつもは攻めてる方が守りに回ると弱い――なんて展開が来たら、萌え死にする恐れあり。

 百合最高っ。百合最高っ。百合最高っ。


 吟遊詩人の経験もある。ガチで流行らせてみようかな?

 まあ、嘘だけど。

 

 おじさんもあと数分もすれば、魔法は解除される。

 思い違いになるか、本道になるかは、――これからのあいつ次第だ。

 俺の見立は、後者な。



 さて、そろそろ戻るか。

 今の俺は、魔王という職業の残滓によって欲望に真っすぐになっている。

 けれど、これだけ吐き出せば、何とかなるだろう。

 抑え込めるはずだ。



====== ====== ======



 宿に戻ると、麗奈が待ち構えていた。


「おおう。ミラは?」

「同じ空気を吸いたくないからって」

「強烈すぎる」


 彼女からすれば、伝言を預かっただけだろう。

  

 だが、ここで俺は麗奈の生きた声で、麗奈自身の思いで、……脳内再生してしまった。


『ええっ??

 修平君と同じ空気なんて吸いたくないよ』


 ――と。普段のおどおどした態度から急に飛び出る毒舌。

 うん、明日から息ができないわ。


「やっぱり全然平気ってわけじゃないんだね」

「ははっ。……それよりも彼女を一人にして大丈夫なのか?」


 分が悪くなりそうだったので、俺は話題を変える。

 まだ言い足りないご様子の麗奈だったが、俺の急かせしが功をなしたようだ。


「大丈夫だと思う。彼女も強いから」

「そうか」


 全く安心できないんだが。

 自分を守れるだけの力がミラにあるとは思えない。


「実は彼女は私たちが襲われた盗賊の仲間に捕らえられていたらしくて」

「マジかぁ」

「それで男嫌いが強くなったみたい」

「そうか」


 恐らくミラ自身に聞いたんだろう。

 何にせよ、俺の方から聞き出さずに済みそうでラッキーだ。

 他の二人についても、何か知っているかもしれない。

 

 聞いてみよう。


「他に捕らえられている奴はいなかったか?」

「姉妹がいたんだけど、……無事親の元に送り届けたから。うそうそうそ――間違えた。親元に帰れたって教えてくれた」

「誰が?」


 後でぜひお礼を言いたい。

 少し前のめりになって耳を傾ける。

 なぜか麗奈は戸惑っていた。


「えっと、ね……冒険者の人」


 ――そうか。

 知らないから不特定多数になった、……ありがとう。

 いや、いやいや。


「もっとこう」

「忘れちゃった」


 おう。なら、仕方ないな。 

 可愛いは正義っ。

 てへっと自分の頭を小突く麗奈の姿はまさに必勝サインであった。

 こんなポーズもするのか。俺氏、感激。


「実はその盗賊が何者かに討伐されたらしい――本当に誰だか分からないよっ。それでね、報酬としてミラと多少のお金を貰ったよ」

「なるほど」


 はい、俺ですね。

 今にして思えば、……あの行動はかなり不味い。

 盗賊壊滅までの時間が早すぎる。

 尋問にも時間が掛かるだろうし、禄に情報も回っていないと推察できよう。


 ならば、白羽の矢が立つのは俺達だ。

 目立ちたくはない。隠している実力がバレてしまうなど以ての外だ。

 なんにせよ、冒険者ギルドに行ってみる必要がありそうだな。


「それで、続きなんだけどね」

「ああ」

「だから余りこの街に長いしたくないなって。どうかな?」

「討伐されたならいいんじゃないか?

 ……どちらにしても明日だな」

「――そうだね」


 麗奈は煮え切らない態度をとった。

 理由は分からないが、盗賊以外に不安なことがあるようだ。ワニ熊はいい経験値になると思ったんだが、彼女が嫌なら諦めるしかないな。


「どこ行くの?」

「走って汗かいたから、水浴びをしようと思って。ウェルを探しに」


 やっぱ忘れちゃいけないよね。

 人間が育つには太陽の光が必要なんだ。――そう、ウェルの太陽ごとし笑みを浴びなければならない。

 活気づけに一発行っときますか。……変な意味じゃないぞ。 


「もうエッチ」


 うん?

 ううん?

 ――何か麗奈さん、ホッとしてませんか?

 はぁ~。遂に俺がそういう性格だと勘付いていしまったらしい。

 そりゃそうか。

 

 若しくはエッチなことに寛容だったり……ふっ、内々定。


 俺はウェルちゃんを探しに行く。

 さすがは俺のロリサーチアイ。すぐに見つけた。


「ウェルた~~ん。一緒に水浴びを、お願いしま――す」

「やったぁ。でも、たんってなぁに?」

「もう、本当にウェルウェルは可愛いな」

「むー。私はウェルだよー」

「ごめんごめん。

 さぁ、いざなろうアダムとイブに。この世界は俺とウェルちゃんだけだ」


 ウェルウェルの肩を押して、水場まで向かう。

 あぁ~プニプニだ。


「じゃあ、これがタオルで~、こっちが石鹸っ。水はここからだしてねぇー」

「えっ!?」


 ――現実は残酷だった。

 タオルと石鹸を俺に渡すと、離れていくウェルウェル。

 カムバー―ック。


「嫌だ嫌だ。ウェルちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だ。一緒がいい。一緒に水浴びするの~」


 ……。

 …………。

 ……………………魔王ざんし――っ!!。

 ってか、麗奈に暴露した時点で気付くべきだった。


「もぉ~仕方ないなぁ~」


 さいこ――っ。

 どうせこの先も苦しむことになるのなら、この場で尊厳なんて捨ててやる。

 俺は一時の幸福を選ぶ男だ。


 それにしてもウェルちゃん。

 男をわかってやるな。これじゃあ何方が年上かわからないぜ。

 

 だが、開き直った俺は強い(確信)。

 それから数分の間、俺とウェルウェルは二人で水塗れになった。


「お兄ちゃんの大きいね」

「でも、もっと大きくなるんだよ」

「そうなのぉ」


 身長の話です。


「はい、目を瞑ってくださいね」

「ううー。これじゃあ、どっちがお客さんだかわからないよぉ~。今度は私がお兄ちゃんを気持ちよくして上げるのぉ~」


 やましいことは何もしていない。

 ただの髪の洗いっこだが。


「あれれ、止まっちゃった?」

「もっと出していい?」

「うん。もっと出して。いっぱいだしてお兄いちゃんっ」


 うん、どうやら一回に使える水の量には限度があるらしいな。

 ホースから水がでなくなってしまった。そこで俺は水魔法を使い、水を生み出す。

 恰もホースから出ているかのように、噴出させた。


「りょうかい。いくよぉ~」

「きゃあ。きゃっ」

 

 ウェルウェルの延長料金は後払いでいいそうだ。

 全力で楽しんでくれて、俺も幸せ。


「ううっ。動きづら――」

「それはダメっ」


 ウェルウェルが重くなった服を脱ごうとする。

 その手を止めた。

 

 ――甘く見るなよ。

 欲望に正直になったかからといって、超えちゃいけないラインはちゃんと残っている。 

 濡れて、透けて……そんなこと、今は置いておくべきだ。

 イエスッ。ロリータ。ノー、タッチ。


「いったい何をしているんですか、この性欲魔神っ」

「あ、おう。……これは」

「小さい子に手を出すなんて、最低ですね。死ねっ」


 相変わらず、丁寧語と罵倒がいい感じに折り重なっている。

 何でもありません。

 服を着せているのと、服を脱がせているのと――。

 それらの姿を画像のように一瞬だけを切り取ったら、どっちかなんて区別がつかないよな。


 慌てて戻したのも……失敗だったか。

 

 弁解しても無駄だ。 

 麗奈ならまだしも――ミラじゃひと筋の光も見えない

 感情で否定され続けるのみ。

 

 やばい。見られてはいけない場面を見られてはいけない奴に目撃されてしまった。

 挙句の果てに、……どうせそれが真実となるんだろっ。

 俺の社会的人生、詰んだな。


  

 

 

 

 

 

 


 

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