鶏ガラ醤油は貧乳の味
メグリくくる
○プロローグ
美しい。
俺の目の前に現れたのは、誰がどう見てもそう表現するしかない少女だった。
まず、長い髪が美しい。澄んだ赤褐色のそれは、まるで上質な醤油スープのようで、彼女の唇は触れればとろけてしまいそうな、極上の鶏ガラ出汁の如き艷やかだ。華奢なその体も美しく、洗練されたそれは極細麺を思わせる。
……比喩が、どうにもラーメンに関係のあるものになってしまった。
しかし、それはある意味仕方がない。何故ならここは俺の家の厨房で、しかも俺の家はラーメン屋なのだから。
いや、だからこそこの衝撃は計り知れないものがある。一体何故、しがないラーメン屋の厨房に、こんな美しい女の子が現れたのだろう?
「君は、一体……?」
俺の言葉に、少女は若干の嘲りの成分を含ませて、笑った。
(わかっているくせに)
ああ、声まで美しい。それはまるで、飢餓の絶頂期に与えられた暖かなスープが、体中に染み渡っていく様な優しい声だった。
そのスープは、そう、まるで――
(自分で作っておいて、その言い草はないんじゃないかしら?)
拗ねたように言う少女の視線を追って、俺も目を動かした。その先にあったのは、ラーメン丼ぶり。
見間違えようがない。あれは、俺がさっき作り上げた――
鶏ガラ醤油ラーメンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます