鶏ガラ醤油は貧乳の味

メグリくくる

○プロローグ

 美しい。

 俺の目の前に現れたのは、誰がどう見てもそう表現するしかない少女だった。

 まず、長い髪が美しい。澄んだ赤褐色のそれは、まるで上質な醤油スープのようで、彼女の唇は触れればとろけてしまいそうな、極上の鶏ガラ出汁の如き艷やかだ。華奢なその体も美しく、洗練されたそれは極細麺を思わせる。

 ……比喩が、どうにもラーメンに関係のあるものになってしまった。

 しかし、それはある意味仕方がない。何故ならここは俺の家の厨房で、しかも俺の家はラーメン屋なのだから。

 いや、だからこそこの衝撃は計り知れないものがある。一体何故、しがないラーメン屋の厨房に、こんな美しい女の子が現れたのだろう?

「君は、一体……?」

 俺の言葉に、少女は若干の嘲りの成分を含ませて、笑った。

(わかっているくせに)

 ああ、声まで美しい。それはまるで、飢餓の絶頂期に与えられた暖かなスープが、体中に染み渡っていく様な優しい声だった。

 そのスープは、そう、まるで――

(自分で作っておいて、その言い草はないんじゃないかしら?)

 拗ねたように言う少女の視線を追って、俺も目を動かした。その先にあったのは、ラーメン丼ぶり。

 見間違えようがない。あれは、俺がさっき作り上げた――

 

 鶏ガラ醤油ラーメンだった。

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