うんち見聞伝

上月 亀男

第1話 うんちって何だ?

皆さん、こんにちは。


犬のうんちです。


主な成分は固形ドッグフードとジャーキーのカスです。


僕は今、アスファルトでできた歩道の隅っこに鎮座しています。


犬の飼い主のマナーさえよければ、トイレに流されて下水処理場にたどり着き、清潔な水となって自然に還ることができたのですが、残念ながらそれはかないませんでした。


ずぼらな飼い主は私を放置して去って行きました。非常識なことこの上ありません。


土に、自然に還ることができないとはうんちにとって最大の屈辱ですが、動けないこの身ではどうしようもありません。


そもそもうんちって何かと言いますとですね。


地球の生き物は、動物、植物、汚物の三種類が存在しますが、うんちはそのうちの汚物に属し、固体類に分類されます。


動物が摂取した食物が色々な消化器官を通って必要な栄養分が取り除かれ、その残渣が腸内細菌によって発酵し、排出されるのに程良い程度に水分を失うことで、我らうんちが誕生します。


うんちは食べ物の残りカスだけでできていると思われがちですが、実は八十パーセントが水分で、残りの半分以上は腸内細菌と、その死骸なのです。


つまり、うんちそのものが生きているのではなく、うんちを構成している腸内細菌が僕たちの意志となるのです。


綺麗な海にいるサンゴを思い浮かべてみるとわかりやすいでしょう。あれもサンゴそのものが生きているわけではなく、サンゴ虫という虫が寄生することで、一つの生物となるのです。


ちなみに、腸内細菌は嫌気性で、発酵の際に硫化水素やメタンを発生し、それは同じ汚物に属する気体類のおならになります。


うんちとおならは本来なら運命共同体の関係にあり、うんちはおならをまとって排出されるのがセオリーなのですが、気体類であるがゆえに短気な彼らは、我慢しきれずに先走って肛門から飛び出ていってしまうのが常です。外に出ればあっという間に霧散してその生命を終えてしまうというのに。


うんちのなかにも出来不出来があり、程良い堅さでしっかりとうんちの臭いを発し、形の綺麗なものほど良いうんちとされます。

硬すぎたり、固体の体をなしてなかったり異臭を発するものは残念ながら劣等生です。

例えるなら水分を飛ばし損ねて出てきてしまった下痢は、能力の低い落ちこぼれで、痔の原因になるような硬いうんちは、やんちゃが過ぎる不良で、悪玉菌が原因で異臭を発するうんちはおそろしい病に感染しているようなものです。


ちなみに、僕は自分でいうのも何ですが、比較的優等生のようです。堅さもありますし臭いもうんちそのものですし、形は犬のうんちにしては少し長めのドーナツ型です。単にコロコロしただけのうんちよりは魅力的な形だと思います。


いえ、違いますよ。自画自賛じゃありませんよ。決して。


あ、ちょっと長くなってしまいましたね。失礼しました。


うんちくが過ぎました。うんちだけに。これが言いたかったんですよ。


最後に一つ。くれぐれも僕たちのことを“クソ”とは言わないように。


これは差別用語です。動物の健康の指標ともなる誇り高きうんちを“クソ”と侮蔑するのは愚の骨頂です。


これは本来、人格が低く他者に害悪をなす迷惑な人間に投げかけられるべき言葉です。


“糞”、“便”は言葉として硬すぎます。僕たちのことは綺麗に、清楚に、華麗に、永遠の友のような親しみを込めて、“うんち”と呼んでください。

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