食べることは生きること

@nana_7

1話 高校生の頃

 世の中には2種類の人間がいる。一つはストレスを受けて食べ物が喉を通らなくなるタイプの人間。もう一つはストレスを食にぶつける人間。心当たりはないだろうか?受験や職場の変化などの環境の変化を期に痩せた人、彼氏と喧嘩をしてやけ食いをした人。このような人々のことは容易にイメージできるのではないかと思う。ここでもう一つ医学的な例を挙げてみる。例えば鬱病という病気に対してどのようなイメージを持っているだろう?気の持ちようの病気、なんだかよくわからないけど辛い病気、自分とは無縁そうな病気。色々あると思うが、鬱病というのは実際に脳に異常が起こっている病気だ。一定期間強いストレスに晒された脳が、ダメージを受けて、脳の幸せホルモンが正常に伝達されない状態になる病気だ。そのストレスを解消しようとする結果の一つに、食の異常行動が挙げられる。それが実際に拒食と過食と言われるもので、つまり食べ物が喉を通らなくなるタイプと、ストレス解消に過度に食べてしまうタイプだ。


 私は昔から食べることが好きで、タイプで言えば後者のストレスを食にぶつけるタイプの人間だった。過去に1人目の彼氏に振られた時は「落ち込み過ぎて食欲が一生起こる気がしない」と思ったのはお昼の2時までで、その後普通に、むしろ朝の分を取り返すようにいつも以上に食べることが出来たし、2人目の彼氏に出先で電話で振られた時は、その足でスーパーに寄って、ポテトチップスの大袋とチョコレートのファミリーパックを買って、家に帰ってベッドで泣きながら、のり塩味のポテトチップスと甘いチョコレートを交互に食べたものだった。


 そんな私の体型はというと、昔から痩せてはいなかった。中学生の頃は毎日部活に明け暮れていたので何とか標準体型を保てていたものの、痩せ型になったことは一度もない。(この時に三食バランスよく普通の量を食べていたら恐らく筋肉質の痩せ型になっていただろう)高校に入ってからは勉強三昧だった。進学校だったので、勉強ばかりするクラスと、勉強はそこそこにスポーツに力を入れるクラスとがあり、部活を許されるのはスポーツ推薦を受けて入学してきた生徒のみだった。私は一般の学生だったので、部活はせず1限の午前8時から7限の午後6時過ぎまでみっちり勉強しなければならなかった。中学生の頃部活をしていた頃に比べれば食べる量は減ったものの、お菓子やパンなどの炭水化物を好んで食べていた。毎日、太りそうだなぁ、なんてことは考えず、間食は必ずしていた。中学生の頃と違うのは運動の習慣が全く無くなったことだった。中学生の頃158cmの52kgくらいだった体重から5kg増え、さらに勉強のプレッシャーが食欲を加速させ、最終的には体重は60kgに到達した。当時体型に無頓着だったのは、「自分は太りやすい体質だ」と思い込んでいて、細い女の子は遺伝子に恵まれている、と自分の食生活に原因があるとは微塵も考えていなかったからだ。(今思い返せば当然、殆ど動いていないのに食べ過ぎていたし、炭水化物ばかりの食生活が原因であったように思う)しかし、体重の十の位が変わったことにさすがに危機感を覚えた私は、人生初のダイエットをしようと決意したのだった。


 高校生の頃の私は、カロリー=栄養、という滅茶苦茶な方程式を建てるくらい栄養素や減量に関する知識がなかった。家庭科の授業で、「ジャンクフードっていうのは、高カロリーなのに栄養に乏しい食べ物のことです」と習った時には混乱を起こすほどだった。そんな私がいきついたダイエット方法は”キャベツダイエット”で、その名の通りキャベツだけを食べて空腹を凌ぐというお粗末なものだった。2か月ほどキャベツばかり食べ続けて10kg近く体重を落としたが、その頃には集中力が散漫になり、常にフラフラで、身体に若干の異常が現れ始めていた。さらに、朝起きてすぐ全裸になって体重を測り(服の重さすら許せなかった)、学校から帰ってすぐに制服を脱いで体重を測って朝の値との差をチェックし、キャベツを食べた後にすら体重を測るようになっていた。そして少しでも増えていると発狂した。最終的にはキャベツの質量分の増加すら許せなくなり、トイレで吐こうとしたり水を飲むことすら拒否するようになる等、精神にも支障をきたしていた。当たり前だが、しばらくして、間違ったダイエット方法によって基礎代謝が落ちたのか体重が減らなくなった。減った数値を見る唯一の楽しみを奪われた私が次に直面したのは過食で、キャベツダイエットを辞めた後は普通の食事の普通の量ですら満足できなくなってしまっていた。2か月で落とした体重は過食によって1か月でほぼ元に戻った。それ以上に太っていたかもしれなかった。その後卒業まで私がダイエットをすることはなかった。


 

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