怪奇集~暑い夜のお供に~
綿麻きぬ
忘れるということ
あなたは、毎日の記憶がありますか?
忘れていることはありませんか?
あなたはふと、忘れるはずのないものを忘れてはいませんか?
忘れるはずのないものが存在していたことすら忘れてはいませんか?
でも、それは自分を守るためのもの。
決して、思い出してはいけないもの。
これはそれを思い出してしまって少年の物語。
僕は忘れっぽいことで有名だ。
宿題から始まり、時間割、靴下、体操着、はたまた友達の名前、そして、思い出。
これ以外にも何か、大事なことを忘れているような気がする。
「お~い、◯◯。今日の数学の宿題持ってきたか?」
「えっ、そんなのあったの!」
「おいおい、また忘れたのかよ。しょうがねぇな、見せてやるよ。」
「ありがとう、えっと、△△くんだっけ?」
「違うぞ、つかそれ誰だよ。俺は◇◇だぜ。」
「ごめんなさい。」
「そんな落ち込むなよ。ゆっくり覚えていけばいいんだよ。」
「うん、ほんと、ごめん。」
「いいよ、いいよ。数学3限だから、それまでに返してくれ。じゃあな。」
今日も友達の名前を思い出せなかった。
せっかく宿題見せてくれてるのに。
あれ?次の授業なんだっけ?
移動教室かな?
みんな、移動してるし。
僕も移動しないと。
でも、僕の足はみんなと逆に向かっている。
誰も逆方向へ進む僕には声をかけない。
こっちじゃないのにそのまま、階段を登る。
あれ?こんな所に屋上の入り口なんて、あったっけ?
鍵はかかってないみたい。
ガチャリ、扉を開ける。
屋上の中心には一人の女の子がたっていた。
その子は制服は着てなく、白いワンピースに裸足、髪はロングで色白。
こっちを振り向いた。
僕は質問をした。
「君は?この学校の生徒じゃないよね?」
「そうよ。いきなりだけどあなた、忘れっぽくて悩んでるのね。」
「そ、そうだけど。どうしてそれを?」
「私ね、●●なの。あなたの悩みを解決して差し上げれるわよ。」
●●は聞こえなかった。
でも、この悩みは長年の悩みだったから、思わずこう答えてしまった。
「えっ、本当?」
それに答えるようにその子の手には小瓶が乗っかってた。
瓶の中はまるで、危険を示すような水酸化銅のような色だった。
「あなたが、もし本当にその悩みを解決したかったら、お飲みなさい。でも、それを飲んだことによってどうなっても知らないわよ。」
「えっ、うん、わかった。ありがとう!授業行かないと。」
「(あなたが.....になれますように。)」
チャイムがなったのを聞き、急いで、、、あれ?どこに行こうとしたんだっけ?
「こういう時にさっきもらった小瓶飲めばいいんじゃん。」
コルクの蓋をとり、一気に飲み干す。
味はソーダだな。
なんも変わらないような気がする。
あっ、思い出した。
次、数学だ。
教室に入る。
そうだ、◇◇くんにノート返さないと。
「◇◇くん、ノートありがとう。」
声をかけるが、反応がない。
「◇◇くん?どうしたの?」
やっと◇◇くんが声を発した。
「◯◯が.......からもう一週間か。」
「そうだな。俺たちが気づいてやれれば。」
「俺たちが救ってやれたかもしれないんだ。」
「な、何言ってるの?僕はここに、ここにいるよ。気づいてよ。」
「もう、会えないんだな。いいやつだったのに。」
「目の前にいるよ。みんな、どうしたの?」
あっ、思い出した。
僕は
死んだんだ。
▼▼に耐えかねて。
屋上から飛び降りたんだ。
思い出した。
完全に思い出した。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ僕はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
もう生きられないんだ。
つらかった、苦しかった、誰も助けてくれなかった。
僕の姿はだんだん薄くなる。
もっと、もっと、もっと、、、、
屋上では、女の子の持ってる小瓶にみるみる、黒い結晶がたまっていく。
どうでしたか?
もし、あなたがあの子だったら飲みますか?
あなたの周りに忘れっぽい子はいませんか?
もし、いたらその子はもう.....かも知れません。
思い出したいことはありますか?
でも、それを思い出したからといって幸せになれるとは限らないかもしれません。
今日はこれくらいで、また今度お会いしましょう。
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