そのに
―言ってた仕事ができていないじゃない。
――すみませんでした。
『よく言うよ、くそばばあ』
頭の中で何かを思った気がするが、私は頭を下げ続ける。
私が今頭を下げている相手は、朝一番に会った先輩よりも、更に年上の先輩。なぜ怒られているのかといえば、彼女が私に頼んだ仕事ができていなかったから。
その仕事は、私の仕事ではなくて、本来彼女がやるべき仕事。彼女がそれを私に頼んできた際、爽やかなの笑顔の裏に、『自分でするの、面倒くさいしぃ。若い奴なら元気だから、いくらでも仕事ができるし、私の分も任せておけばいいよねぇ~』と言う怠惰な顔がはっきりと視えた。
『できません』と断ろうとすれば、こちらの方が職場で急ぐ重要な案件だからと『先輩論』で押し切って、押し付けて来たくせに。
そして、彼女は、触れまわす。あの子、『自分でやると言ったくせに、放っておいたのよ』と。
――やるなんて言ってない、アンタが、押し付けて来ただけだろ。
私は何かを思った気がするが、すぐに元の無感情になった。そうして、ひとしきり彼女に謝った後、申し訳なさそうな仮面をつくって、椅子に座る。別に反省などしていない、心は空っぽとも思えるような平静なままだ。しかし、反省という仮面をかぶっていないと、反省していないとして、彼女の激情に火をつけるだけ。彼女は私を無能だと更に触れまわすに違いないから、私はその仮面をかぶる。
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