第3話
色々と考えに考え抜いた結果、チョコレートの本場であるベルギーのユーグレイマン研究所に連絡を取って、こっそりとチョコレートを融通して貰うことにした。まだまだユーグレイマン技術が発展途中であるベルギー支部には日本からも人材派遣がされている。そのうちの一人に先生の孫がいたので、その子に頼んだのだ。すぐに彼女は帰省と称してやってきた。
「やぁやぁやぁ、イヨ。お待たせ〜」
人懐こい笑みで白衣に身を包む彼女は悠里ゆうりという。悠里はあたしが先生の他に心を許せる数少ない人間だ。
あたしはすぐにチョコレートがあるか尋ねる。早く先生に贈りたくてうずうずしてるのだ。
でも悠里はちっちっちっと指を振った。
「待て待て待て、待つのだイヨ。今、ベルギーに置いてあるチョコレートは完全に保存用で可愛くないのだよ。だから、デコレーションしまーす」
「でこれーしょん?」
「チョコレートにお洒落させるのだよ」
そう言って悠里は日本本部に着いて早々に台所へとあたしを引っ張っていった。あらら? エプロンを渡されました。
「チョコレートは服に飛びやすいからね〜」
悠里は白衣を脱いで自分もエプロンを着用。それから、ごつごつとした大きな固まりを取り出した。チョコレートだ。
確かにこれでは可愛くない。悠里曰わく、削って湯煎とやらをすれば自分好みの形にすることができるそうだ。指示通りに従って作業を進めていくと、あっと言う間にごつごつとした塊から小さく可愛らしいチョコレートへと変身した。ほー、人間の食べ物って不思議ね。
「ここまでやったら、ラッピングにも力を入れないと〜」
悠里はどこからともなく出した透明なパリッとした袋にチョコレートを詰めていく。流石に全部は入りきらなかったので、残りは手伝ってくれたお礼として悠里に食べて貰うことにして差し出すと、悠里は喜んで受け取ってくれた。そのついでに後片付けを頼み(確信犯)、あたしは先生の元へ向かった。
先生は食べてくれるかな?
◇◇◇
先生の部屋に行くと、いつも以上に人がたむろっていて中に入ることができない。仕方なく、慌ただしく行き交う人の一人を捕まえて事情を聞いてみた。
「ねぇ、先生に何かあったの?」
「ああ、イヨ君か。大教授が体調を崩してしまわれて、それが思ったより芳しくなくてね。今、危篤状態なんだよ」
「危篤……?」
危篤という言葉は知っている。確か死にそうな状態の人に対して使う言葉だ。死ぬと言うことは、居なくなることと同意義だと先生から教わった。
あたしは溢れる人を押し退けて先生の部屋へと入る。先生の周りには見慣れぬ医務課の人達が集まっていた。
───呼吸停止、酸素ボンベを!
ざわめく部屋の中で、誰かがそう叫んだのが聞こえた。
あたしも叫ぶ。
「酸素ならあたしが作れる!!」
あたしの
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