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「よし、それじゃぁ何からして行こうか」

 バックバーを眺めながら斉藤君に訊ねると彼は顎を指でなぞりながら答えた。

「そんなにお酒が強い子じゃないんですけれど、飲むのは好きみたいで。女の子が好きそうなあまり強くない奴を」

「あれ? 女の子のだけでいいの? 他の友達の好みは?」

「あー、まぁその辺は適当に。そんなにカクテルを知っているような子達じゃないので。そいつ等が飲むような定番のカクテルは、多分、大丈夫なんで」

「そう? それならいいんだけど」

 そう言って頭を掻く斉藤君はなんだか微笑ましい。そうだよな、格好良く見せたいのはその子だけにだもんね。

「それじゃぁ何にしよう? 女の子が好きそうなもので、シェイカーが振れるほうがいいよね」

 そっちの方が格好いいもん。

「ならコンチータなんてどう? 女性的な一杯って感じだし、可愛いものなんて意味もあるんだよね」

「そ、それがいいですっ」

「ふふ、じゃぁコンチータから練習しようか。何を使うかは知っている?」

「テキーラがベースですよね? あとはグレフルとレモンジュース?」

「そう、それじゃぁやってみよう」

 作業台の上に材料と道具を揃えてまずはお手本の一杯。作り慣れたカクテルだけれど、斉藤君の為に低速で作ってみる。斉藤君の真剣な眼差しが可愛らしい、なんて。だって同じようにシェイカーを振る素振りを見せるんだもの。初めてバイトに来てくれた頃を思い出した。

「わぁ、やっぱり美味しい」

 まぁこれでお金貰っているからね。でもそんなの関係なく、カクテルは美味しく作れるようにならなきゃね。飲んでもらう人にもカクテルにも失礼だから。

「コンチータを作り終えたら今度は定番だけどスクリュードライバーを作ってみようか」

「スクリュードライバー、ですか?」

「知らない? スクリュードライバーは別名レディーキラー。飲ませ過ぎには注意だよ?」

 そう言って笑ってみせると斉藤君も誘われた様に頬を緩めた。

「ご指導よろしくお願いします」

「任せて」

 これもマスターの仕事の一つ、だもんね。

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