第12話 ドラゴンテイルの朝の風景
目を覚ますと太助はティカとリンを掛け布団にしているようにベッドで寝ていた。
目覚めは正直、良いとは言えない。
理由は太助の祖母、ホーラに手加減なしの蹴りを人中に受けて気絶したからだと覚えていた為である。
大口を開けて豪快に寝るティカと太助の首に抱きつくようにスースーと大人しく寝るリンに笑みが浮かぶ。
そっと目を窓に向けるといつも起きる時間より少し早い程度だと分かると2人を起こさないようにベッドから降りると傍にあるテーブルに一枚の紙がある事に気付いて手に取る。
「ジッちゃんらしいな……」
紙を見つめながら苦笑を浮かべる太助が目にしたのは雄一の字で『後は任せろ』と書かれた説明すら端折り、どこからどこまで? と問いたくなるような置き手紙であった。
だが、太助はあの雄一の孫。
当然のようにその言葉を意味を良く分かっていた。
「まったく、ジッちゃんに尻拭いさせる俺はまだまだだな……」
今回の騒動を落ち着かせるところの最後までという意味である。
そして、太助も気付いている。
太助の為にではなく、ドラゴンテイルにいる少女達、特に今回、渦中にカリーナが一日も早くこちらに溶け込めるように雄一が動くのだと。
だから、太助が亜人に関わる問題は解決するという言葉を吐いたギリギリの面子を守れる領域までしか介入をしない。
情けない気持ちを掻きだすように頭を掻きながら太助は作業場へと足を向ける。
「今日はカリーナの冒険者登録と初依頼に同行しないといけないし、時間もないから気合い入れるか!」
零細コミュニティ、ドラゴンテイルはいつでも貧窮していた。本当なら少しはカリーナを休ませてあげたいと思うが、ダンガに溶け込むという理由もあるがやはり働いて貰わないといけない。
その辺りの事情はロスワイゼがしてくれているだろうと太助は思う。テルルの時も言い難そうにする太助に代わって言ってくれていた。
再び、色々と情けなくなった太助は深い溜息を零す。
ヘコんだ自分に活を入れる。僅かとはいえ、収入源にもなっているポーション作成をする為に太助は仕事道具を取り出し始めた。
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それから無心にポーション作りに勤しんでいた太助が乳鉢に入れた薬草を乳棒で擦り終えたところで背中にティカとリンが飛び付く。
乳鉢の中で擦り終えた薬草が零れないように押さえる太助の顔の両端から2人が顔を突き出してくる。
「タスケ、ご飯なのだ!」
「今日はお魚さんデシ!」
早く、早くと揺する2人に苦笑いさせられる太助は「分かった、分かった」と乳鉢に出来たポーションの材料の1つを小瓶に移す。
無事に済ませ、立ち上がると揺すってた2人に向き合う。
「もうちょっとで零すかと思っただろう?」
両手を上げて「がおぉ!」とモンスターのフリをすると2人は楽しそうに高い声を上げて逃げ出す。
それを追いかける太助はギリギリ逃げれてるように演出し、食卓の近くに来た瞬間、2人同時に抱き抱える。
「ようし、悪戯っ子を掴まえたぞ?」
「捕まったデシ!」
「くそう、明日は逃げ切ってみせるのだ!」
終始嬉しそうにする2人と笑い合う太助の背後に人の気配を感じて振り返る。
そこには眠くて機嫌の悪いと思われるカリーナが見下すように見てくる。
不機嫌なカリーナの視線に呻かされる太助。
「朝から元気よね……」
「そうか、吸血鬼は総じて朝が苦手だっけ?」
頭を押さえて辛そうにするカリーナが溜息混じりに答える。
「血が足りてたらもう少しはマシなんだけどね」
「そう言えばそうよねぇ? タスケちゃん、血を少し分けてあげたら?」
台所からテルルと一緒に食事を運びこんできたロスワイゼに言われて、今、気付いた様子の太助がティカとリンを床に下ろす。
カリーナに近寄り、「どこから血を?」と甚平の腕を捲ったりする太助。
「ごめんね、気が利かなくて?」
「い、いらないわよ! アンタの血なんて!」
急に元気になったように顔を真っ赤にするカリーナは太助を指差して「馬鹿、馬鹿でしょ!」と本人も何を言いたいのか分からないらしく、とりあえず罵倒する。
拒否するカリーナを見てロスワイゼは食器をテーブルに置いて空いた手で頬づえするようにして困ったように綺麗な眉をハの字にして見つめる。
「とはいえ、今日は冒険者ギルドの登録と初依頼でしょ? それじゃもたないわよぉ?」
同性である私達では無理だと困るロスワイゼ。
それを見上げるティカが朝食の匂いに誘われてやってきたタヌキを掴まえるとカリーナに掲げる。
「タスケが嫌ならタヌキなのだ! タヌキは雄なのだ!」
「……気持ちだけ受け取っとくわ」
一瞬、大慌てしたタヌキだったがカリーナに拒絶されてホッとした様子を見せた後、何か落ち込むように項垂れる。
何やらヘコんでいるらしいタヌキを慰めるティカとリンを横目に太助が近寄る。
「追々、何か違う方法を考えるから当面は俺ので我慢してくれないか?」
「分かったわよ……」
妥協してくれたとホッと胸を撫で下ろす太助であったが、どこから血を摂取するのか分からず困っていると少し拗ねたような顔をするテルルが口を開く。
「……首筋からが効率的と聞いた事があります」
「そうなの? ありがとう、テルル」
テルルの微妙な表情に気付きもしない太助は嬉しそうに感謝を告げると首筋を出して後ろを向く。
一瞬、躊躇する様子を見せたカリーナを目だけを向ける太助に目を逸らすカリーナ。
「知らないわよ?」
「えっ、何が?」
振り返ろうとした太助だったが首筋に2つの尖ったモノが当たるのに気付いて動きを止める。
そして、すぐに太助の悲鳴が響き渡り、それが合図になったように残るメンバーは食卓に着いて手を合わせて「いただきます」をして食事が始まった。
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