面倒事は人任せ
「いや、面倒だから嫌だ」
メルは面倒そうにそう言うと、ソファーに座ったまま紅茶を飲む
「そ、そこを何とかあっぁああああ!!」
「いや、『事情は今話せないけど、とりあえず依頼を受けてくれ』って言われて受ける人は相当お金に困ってる冒険者だけだよ?」
必死で頭を下げる男だが、メルは全く相手にしない
だが、当然と言えば当然で、内容の分からない依頼は受けたくないし、目の前の『貴族』からは面倒の香りしかしない
だから、今回は早急にお引き取り願いたかった
「僕はよくわからない依頼を受ける馬鹿でもお人好しでもないし、面倒そうだから受けない。だから、帰ってくれない?」
「お、お願いします!!む、娘の命が!!」
「娘?」
「あっ……」
明らかに失言であるその言葉に、貴族の男だけではなく、その執事まで顔を青くする
メルはそれを見て「へぇ……」っと声を漏らすと、紅茶を一口飲む
「もしかして、君の娘が誘拐でもされた?」
メルのそんな発言に、貴族の男は一瞬戸惑った後、「そうです」と答える
そんな貴族の姿を見て、メルは少し考えた後、隣に座っていたリギルの方を見て、ニヤッと笑った
そんなメルを見てリギルが頬を引きつらせたのは言うまでもない。メルの笑顔は何かをやらかす前触れなのだ
「『紺色の霧』としてなら、依頼を受けることもやぶさかではないよ」
「ほ、本当ですかっ!!」
「うん。でも、条件がある」
メルはそう言うと、人差し指を立てる
「一つ。依頼が達成するまでの間、僕たちの質問に対して、答えられる範囲で嘘偽りなく答えること」
さらに、中指も立ててメルは続ける
「二つ。僕たちは僕たちのやり方でするから、君たちは僕たちの指揮下に入って。さあ、この二つの条件を飲んでくれる?」
「勿論。娘がそれで助かるなら!」
貴族の男は、頭が何処かへ飛んでいきそうなほどの勢いで頷く
それを見たメルはニヤリと笑うと、
「さあ、いくら払う?」
結局、メルは法外ともいえる金額を貴族から引き出して、依頼を受けた
「メル、本当に大丈夫か?王都に居ない可能性だって……」
貴族を返した後、リギルがメルにそう尋ねた
しかしメルはニヤリと笑うと、「大丈夫」と答える
「どうせ働くのは僕じゃないし」
「……は?」
まさかのメルの爆弾発言に、その場にいて準備していたメンバー全員がメルの方を向いた
「え?だって、僕はクランとしてこの依頼を受けたんだよ?だったら、クランメンバーが働いて、マスターはのんびりするのは当然だよね?敵のアジトを見つけるまではしてあげるから、その後はよろしく」
『敵のアジトを見つけるまではしてあげる』という発言に、皆がホッと息を吐く
まあ、当然の話で、戦闘力が非常に高いこのクランにとって、敵の制圧というのは難しくなく、むしろその前の段階のほうが難しいのだ
メルはゆっくり立ち上がると、庭に出て空を見上げる
それを見たメンバーたちは、メルが何をする気なのかを疑問に思い一緒に庭へ出る
「じゃあ、ちょっと離れてね。これからするのは、魔力操作の応用」
メルはそう言うと、その体に持つ膨大な魔力を手加減なく放つ
すると、その魔力はメルを中心に球状に広がっていく
これは、日本で言うところのソナーのようなもので、魔力に魔力をぶつけた時に起こる『魔力共鳴反応』というものを故意に起こし、その反応を確かめることでどんな魔力を持つ人物がどこにいるかを調べる方法である
「……見つけた。場所はこの場所から南西。この場所は……スラム街の地下室。エルナ、地図貸して」
「うん」
「ありがと」
メルは、エルナから受け取った地図を広げると、一点を指差す
「場所はここ。ついさっきの貴族の魔力反応と半分一致したから間違いない」
「ついさっきの貴族に魔力ぶつけてたのかよ」
「気づかれない程度の量だったから問題ないよ」
リギルのツッコミに対しメルは悪びれる様子もなくそう言うと、地図に赤いバツ印を書いてエルナに返す
「じゃあ、作戦は任せた。人質をケガさせないように気を付けてね」
「ああ」
「うん」
「わかりました」
「了解!」
メルの言葉に、三者三様の言葉が返ってくる
メルは手を振って出かける彼らを見送ると、何故か口元に手を当ててふふっと笑う
「さて、
ニヤリと笑うその顔は、これから何かをやらかす悪戯っ子のような笑みだった
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