もし神様がいたのなら、それは過ちであっただろう
綿麻きぬ
佐藤翔太編
これが始まりではなかった
僕は佐藤翔太。
ごくごく普通の高校生をやっている。
今日は夏休みの最終日。
夏休み最後の日を堪能しようと思ったのだが、勉強ができないと言って松田薫が転がり込んだ。
僕もそこまで勉強ができる方ではないと言うのに。
「翔太ー、この問題がわからない。」
「ハイハイ、僕もわかりません。」
「そういや、葵ちゃんが隣の家だったな。葵ちゃんに教えてもらうよ。」
葵は僕の幼馴染で、頭がよく、運動神経もよく、人に好かれ、僕にないもののすべてを持っている。
「分かった、その代わり呼ぶのは僕じゃなくて薫が呼べよ。」
「あいさー」
薫がスマホを取り出して葵に連絡をとる。
その1分後、僕の部屋の窓が叩かれる。
「翔太、窓開けてー。」
この年にもなって窓から入るとかどこの山猿だ。
僕はそんな山猿をちゃんと玄関から入らすために窓を開けないと決めた。
「おっ、葵ちゃん来たじゃん。今、窓開けるからちょっと待って!」
その窓を開けるなぁぁぁぁぁぁぁ、そんな思いは届かず窓は開いた。
「サンキュー。翔太は窓開けてよ。」
「まて、窓から入ってくるお前が悪いだろ。」
「テヘペロ」
テヘペロじゃなーーーーーい。
そんなことより、宿題を早く終わらせてこいつらを追い出さなければ。
「とりあえず、宿題を終わらすぞ。」
「「ラジャー」」
そこからは黙々とまではいかないが、まぁまぁサクサク進んではいた。
だが、みんなの手が止まる話が始まってしまった。
「そういや、翔太や葵ちゃんはゲームとかしないの?」
「うちはするけど、翔太はしないなぁ。」
「僕はゲーム苦手だから。」
なんでかは知らないが僕はゲームが苦手だ。
「葵ちゃんは何のゲームやるの?」
「血統世界をやってるよ」
「まじで!俺もやってる。せっかくだから翔太もやらうぜ。」
僕は遠慮しとこうかな。
葵も複雑な顔してるし。
「絶対はまるから!な!」
そう言って、薫は僕からスマホを奪いインストールする。
「おい、なにやってるんだよ」
「まてまて、もう少しでインストールが終わるから。」
薫め、覚えてろ。
「ほい、インストール終わったぞ。」
そう言ってスマホは返された。
「アイコンをタップすれば始まるから、薫様の強さを見せつけてやろう。」
「あとで、会おうね、翔太。」
「葵ちゃん?もしかして、葵ちゃんって...」
言葉の最後を聞く前にアイコンをタップしてしまった。
その瞬間、僕は光に包まれた。
次の瞬間には小学生の僕が夕焼けの中、女の子と徒競走していた。
僕は男子だからその女の子より足は速い。
だからその子を置いて先に行ってしまった。
しばらくすると、いきなり後ろから人が倒れた音がした。
恐る恐る振り返ってみると女の子が血まみれになって倒れている。
その横には仮面をつけている人がたっていて女の子を見下ろしていた。
肩を叩かれた。
仮面の人が後ろにいる恐怖で動けない。
「翔太どうしたの?」
葵の声が聞こえた。
そのときにはもう小学生ではなくなっていた。
目の前には葵と薫が立っている。
「おいおい、翔太なんでしばらくフリーズしてたんだ?」
「怖い映像を体験してた。でも、なんか懐かしい風景だったような。」
「ふーん、そんなことより三人とも選ばれた組なんだな。」
「選ばれた組ってなんだ?それにゲームの中にいるみたいだけど。」
「よくぞ、聞いてくれた!選ばれた組とはゲームの中に入れて、ゲームの中の能力が現実でも使える人たちだ!という訳で能力を見せてくれ!」
さっきから葵が黙ってるけどどうしたんだろうか?
「茜、二人にパーティー申請して」
『分かりました』
葵が誰かに話しかける。
「茜からパーティー申請くると思うからそれを許可して。」
すると、美しい声が聞こえた。
『葵さんからパーティー申請が来ています。許可しますか?』
なんて答えればいいのか分からないがとりあえず許可します、と答えた。
目の前に薫と葵のステータスが表示された。
薫がパーティーのステータスを見たとき、薫の顔がみるみる青くなった。
次の瞬間、薫が葵に飛びかかって殴ろうとする。
「お前えええええぇぇぇぇぇ、凛ちゃんをぉぉぉぉぉぉぉぉ」
葵は薫の手を魔方陣で受け止めた。
僕には何が起こってるか分からない。
「凛が言ってた子は薫か。」
葵の声は平坦で感情が込もっていなかった。
僕の知っている葵ではない声だった。
まるで別の人みたいだ。
「お前のせいで凛ちゃんは、凛ちゃんは、」
薫は泣きながら、葵を殴り続ける。
でも、その手は葵に当たることはなかった。
止めに入るべきだった僕は突っ立ってるだけで今の状況をみてることしかできない。
「薫の攻撃じゃうちには当たらないよ。いい加減にしなよ。」
「お前なんかに何が、何が、分かるんだよ。」
薫は息が切れてもう動けない状態になってた。
「茜、そろそろいいかな?」
葵が見えない人に話しかけている。
『準備はととのいました。これからお三方をマスタールームに転移させます。』
美しい声が答える。
次の時には僕たちは無機質な部屋にいた。
薫と僕は何が起きたか分からないでいると、目の前に仮面を被った人とギリシャ神話に出てくるような女性が光のエフェクトとともに出てきた。
「レディース&ジェントルマン、ようこそ、マスタールームへ。単刀直入ですが、今日お招きした理由は翔太さん、あなたの力が欲しいのですよ。」
「はい?」
なんかいきなり話が振られて訳が分からない。
力ってなんだがまだ分かっていないんですけど。
みんな話が繋がってないし、現状が分からない。
「おやおや、葵は何も話してないのですね。まぁ、いいでしょう。翔太さん、交換条件です。あなたがこのゲームで強くなり、あなたが私に力をください。そうすれば、葵は返しましょう。では、葵、こちらへ来なさい。」
「はい。」
そう言って、葵は仮面を被った人の所へ歩いていく。
「翔太さん、この条件を飲みますか?」
その次、僕と仮面の人との会話を突然、薫が遮った。
「お前は凛ちゃんの行方を知っているのか?」
「ほう、那賀凛のことを知っているのですか。まだまだ、抜け穴があったようですね。」
凛ちゃんって、さっき葵を殴ろうとした時も言ってた子だ。
一体誰なんだろう。
「いいから、答えろ。」
薫はすごい怒気を含んだ声でどなる。
「いやいや、怖いですね。そんなに凛ちゃんに会いたいなら会わせてあげましょうか?会ったらショックを受けると思いますけどね。」
薫は即答で答える。
「会わせろ。」
「いやはや、忠告しましたよ。会っても私に殴りかかるなんて真似しないでくださいよ。茜、お願いします。」
茜と呼ばれたギリシャ神話に出てくるような女性はぼそぼそとなにか言った。
すると、薫の目の前に車椅子に座った僕たちより年下の女の子が出てきた。
「凛ちゃん!」
薫が名前を呼び、駆け寄る。
しかし、薫は凛ちゃんの異変にすぐ気がついた。
凛ちゃんは目には生気がなく、手足はだらりとしていた。
「おまえ、凛ちゃんに何したんだ!おい、答えろ!」
「薫、××××××××××××でね。」
何か、凛ちゃんと呼ばれる子が言った。
「茜、そろそろ限界だろ、戻せ。」
次の瞬間、凛ちゃんは消えた。
薫は膝から崩れ落ちる。
「凛ちゃん.......」
僕はどう動けば、薫になんて声をかければいいかわからない。
「こちらも片付いたことですし、翔太さん、お返事を聞かせてください。」
「葵、ホントに自分の意思でそっちに行ったのか?答えてくれ。」
「............」
「おやおや、私をそっちのけで会話ですか?」
「葵、答えてくれ、どうなんだ?」
「.............」
「葵.....」
「葵は答えませんよ。それより、翔太さん、あなたはどうしますか?」
「もちろん、大事な幼なじみを渡すものか。」
「その返事を待ってましたよ。これでやっとやっと私は解放される。この時を何百年、何千年と待ったことだろうか。あぁ、もう、深い夜ですね、あなた方は明日、学校があるのでしょう?ログアウトしたらどうでしょう?と言っても、ログアウトできる状態じゃないですね。私がログアウトさせて差し上げましょう。」
「茜。」
「はい。」
「ま、まて、」
僕と薫は僕の部屋にいた。
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