異世界から来た魔女
@10071999
第1話魔女の襲来
8月1日。天気は晴れ。気温32度。
全国的に真夏日となったこの日に俺は猛暑の中買ったばかりの好きな漫画の新刊をぶら下げて家に向かって歩いていた。
日本の夏はなんでこんなに暑いのか、と思いながらも家にたどり着いた俺はまず、冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに移し一気に麦茶を飲んで水分補給をした。早く買ったばかりの新刊を読みたいがあまりに急ぎ足で自分の部屋へと向かう。そして自分の部屋の扉を開けた。
そのときだった。
俺の机の引き出しからがたがた、と音がするのだ。
そして、誰が開けるでもなく自分の力で開けたかのように引き出しが開かれた。
そしてそこからひょっこりと女の子が顔をのぞかせた。
例えるなら○ラえもんのような。
俺は驚きのあまり立ち尽くした。
その子は、引き出しの中からじーっと俺を見つめてしばらくの沈黙の時間が続く。
そして、よっこいしょっと、女の子は俺の部屋の中に入る。
全身黒服のワンピースにピンク色のショートヘアーの女の子。
今、目の前で起きていることは夢なんじゃないかと思って頬をつねるが、自分の顔をブサイクにするのと痛みだけが募るばかりだった。
蝉の鳴き声だけが耳に入る沈黙された世界をこじ開けるように女の子は口を開いた。
「ねぇ」
「は…はい」
「あんただれ?」
それを聞きたいのは俺の方なのだが、俺は答えた。
「俺はナツキ。あなたは?」
「私はココ」
夏の日差しが差し込む部屋の中で青空を背景に彼女の姿を見たとき、俺はふと、美しいと感じてしまった。
まるでキャンバスに描かれた一つの絵画作品のように美しく、どこか儚げな彼女に俺は目を奪われた。
だがーー
その子はなぜかーー
頭にパンツをかぶっていた。
それから俺はココと二人きりで話すことにした。
というのもあまりにも訳が分からなすぎることに警察に連絡したところでどうにかなるとは思えなかったからだ。
ココは、先程からじーっと俺を見つめてばかりで全くそれ以外に動きが見られない。
どこか不気味さえ感じる。
だが、このままでは死ぬまでこうしている気がしたから俺から話を切り出すことにした。
「えーっと、ココさん。その頭にかぶってるパンツはなんなの?」
「別に気にしなくていい。ナルトの額当てみたいなもんだから」
気にするだろ!どこの世界にそんな汚い額当てがあるんだよ。
「っていうか、ココさんはなんで俺の机の引き出しから出て来たの?」
「私、魔法が失敗して異世界から来た魔女なの。ここに来たのはそういうことだから」
今さらりと大事なことを言われた気がするんだけど気のせいではないよね?
っていうか、異世界ってなんだよ。
魔女ってなんだよ。
魔法ってなんだよ。
なんだよその今時の異世界転生ラノベみたいな展開は。
いきなりすぎて頭がついていかない。
っていうか、なんで異世界人ナルト知ってるんだよ。
「ナルトは海外だと人気だからね」
異世界を海外感覚で言ったよこの人。あと、なんで俺の心の声聞こえてんだよ。
「聞こえてないよ」
やっぱり聞こえてんじゃねぇか。
ココのいうことに驚きすぎて俺は一度大きくため息を吐いた。
だいたいそもそもこの子が本当に異世界から来た魔女という証拠はどこにもない。
だが、引き出しから○ラえもんみたいに出て来てるから可能性も高い。
だが、100パーセントでもない。
俺はココに質問をした。
「あの、ココさんは本当に異世界から来た魔女なんですか?」
ココは表情一つ変えず答えた。
「信じるか信じないかはあなた次第です」
いや、質問に答えろよ。
「じゃあなにか魔法の一つや二つ見せてくださいよ。そしたら信じてあげますよ」
そう言うとココは立ち上がって、俺の部屋を出た。
「どこに行くんですか」
「今から魔法を見せてあげるからついて来て」
俺はココと一緒に外に出た。
「ホウキある?」
「ホウキ? あるけどなんで?」
「いいから持って来て」
俺は渋々倉庫の中からホウキを取り出してココに渡す。
すると、ココはホウキを手に取ってまたがる。
「なにをするの?」
「飛ぶ」
そう言うと、ぶわぁあっとココの周りに風が吹いた。そのままふわふわとココの体とホウキが宙に浮かんだ。
すると、ココは俺に手を伸ばす。
「乗らないの?」
「乗れるの?」
「もちろん」
俺はココの手を掴んでホウキにまたがった。
「しっかりつかまっててね」
言った瞬間、ずどん! と猛スピードでホウキが動き出した。まるで戦闘機に乗っているような感覚で空を自由自在に旋回し、飛び回った。
まるで鳥にでもなったかのような気分になりながら、ホウキの上から見下ろす街を見て高さのあまり足元が空くんだ。
「どう?信じてくれた」
「うん……まぁ」
「じゃあ終わり」
ココはそのままふわふわと俺の家のところまで着陸して、ホウキを俺に渡した。
「すごいね、ホウキに乗って空を飛べるなんて」
「魔女みたいでしょ」
じゃなかったら何なんだよ。
ココは胸を張ってそう言った。
「じゃあ、早く元の世界に帰った方がいいんじゃない? ほら、いつまでもこんなところにいてもあれでしょ?」
ココはしばらく黙った。
もしかして、あのお約束ではないだろうか。
俺の漫画やラノベの読書歴を察するにこの展開はもしや。
俺の考えが正しければココはきっとーー
「帰り方がわからない」
やっぱり、そうですよねぇ……。
なんだろう。この異世界転生お約束展開は……。
「だから、帰り方がわかるまでここにいさせてほしい」
「へ…………?」
いやいやいや、どこまでお約束展開だよ。だが、今は両親が二人きりで旅行に出かけている最中だから奇跡的にこの家には俺しかいない。俺も人に言えないくらいにお約束展開守ってるな……。
それに、異世界から来たというのであれば下手に外に一人で出歩くのも危険の可能性もある。
なら、必然的にこの家にいた方が安全なのかもしれない。
「……わかった。でも、ちょっとの間だけだからな。それまでに帰る方法を探せよ」
「わかった」
ココは少し嬉しそうにそう言った。
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