ラーメン屋の悲劇

黄昏の夜月(たそがれのナイトムーン)

第1話 活気

 今から20数年前に地元にとても流行っていたラーメン屋があった。

とんこつラーメンの専門店である。

連日、超満員で、空いている日などない。

 

 店内の活気は、今風のキレイな店とは正反対で、昔ながらのラーメン屋をイメージしてくれればいい。熱気ムンムンの汗かきながら食べるラーメン屋さんだ。

エアコンではなく、大きい扇風機のようなものが付いているお店だった。


 お店にある新聞や雑誌などは、その日に入ったばかりのものでも、お客さんが多すぎて、すぐにヨレヨレのビリビリになってた。

 

 お店の従業員を囲むようなカウンター席のお店で、テーブル席は奥のほうに数席あった。常に真ん中の空間のところに、お店のスタッフたちがひしめき合っていた。2~3人でぎゅうぎゅうのスパースに常に5~6人のスタッフが汗だくになって働いていた。


 「へい!らっしゃい~」

・・・と常に、この大将の心地良い掛け声、そして、その周囲に居るスタッフの追いかけるような

 「らっしゃい~~~!」

 「いらっしゃいませ~!(女性スタッフ)」

・・・としばらく、その合唱が続いた。とても活気のあるお店だった。


 お客さんが入店するたびに、この合唱が始まり、連続してお客さんが来ると、5分くらいずっと・・・

 「らっしゃい~」

 「へい!らっしゃい~」

 「いらっしゃいませ~(大将の奥さん)」


 やかましいわっ!・・・と思うくらい、延々と言っている時もあった(苦笑)。

掛け声のほうがボリューム大きすぎて、隣に居る友人との会話が全く聞こえない。

男性、女性、老若男女問わず、お客さんが入り乱れていた。


 今では当たり前の”替え玉”とか、当時では、かなり斬新で人気があった。

もちろん、他所のラーメン屋ではやってないサービスだったからだ。

最近の替え玉は、スープをつけたしを行うのが当たり前なのだが、昔は、”それはない”。


 つまり、替え玉をするたびに、スープは薄くなり、最終的には、スープが無くなる(笑)。それでも、替え玉を続ける意味不明なお客さんたちがたくさん居た。

今で言うところの、汁なしラーメンである。正直、美味しくはなかった。


 お店の場所は、街のど真ん中に位置しており、”駐車場はない”。

ラーメン屋の前には、路駐の嵐だった。反対車線にも路駐が並んでおり、軽く20台は縦に駐車されていた為、他のお店からのクレームと通報がえげつなかった。


 そして、街中のため、常に、パトカーが巡回しており、通報後、即駐車禁止を取られたドライバーの数は計り知れない(汗)。

 それでも食べに行くのをやめない常連客たち。駐禁よりもラーメン!ラーメン食べれるなら駐禁なんか怖くない!!そんな言葉が常連客たちの口癖だった。


 それでも、気になるお客さんは居て、なるべく出入り口付近に座り、外をチラチラと見ては、ラーメンをすする。パトカーの姿が見えた瞬間にラーメン屋を飛び出し、自分の車の元へ走る!・・・が、すでに手遅れ。


 おまわりさんに交渉をしても、駐禁を貼られて、お店に戻ればラーメンは伸びてて、踏んだり蹴ったりである。高いラーメン代である(苦笑)。


 私がこのラーメン屋を知ったきっかけは、大学時代、友人のまたその友人から聞いて・・・

「旨いラーメン屋があるから、これから行かねーか?」

・・・と言われたのがきっかけである。


 私は、大学生のとき、当時、時給530円でアルバイトをしていた。今では考えられない時給である。そこのアルバイトを辞めた後に、もう少し割りのいいバイト先が見つかり、書店のアルバイトを始めた。

・・・とはいえ、時給550円だ(汗)。


 そこで、すぐに意気投合したアルバイトが2人居て、そのうちの1人の友人がラーメン屋を教えてくれた。


 その1人は、マックでアルバイトしていた。書店とマックは近くにあり、アルバイトの休憩時にマックを利用し、その友人とも親しくなった。


 大学は、4人とも全員バラバラの学校に通っていたが、そんなことは関係なく親しくなっていった。


 書店のアルバイト終了時間とマックのアルバイトの終了時間が近かったので、いつもこの4人は、バイトのシフトが入ってなくても入っていても、毎日、バイトが終わる時間帯に合流していた。


 その時間から、空いている飲食店は限られ、夜中にやっているお店と言えば、必然的にラーメン屋へ足を運ぶようになった。


 そして、私もラーメン屋の常連客の1人となった。初めて来店したとき、お店の人が気さくに声をかけてくれたのが今でも印象に残っている。


 初めてのお客さんも常連のお客さんも分け隔てなく、接する対応に心地よさを感じた。常に汗だくの店員さんだったが、笑顔は決して絶やさない。従業員の鑑であった。時折、声が枯れていたが、一生懸命働いていた証拠であった。


 大学1年生、大学2年生と2年間ほぼ毎日(当時は定休日がなかった)そのラーメン屋に通った。


 朝、昼は、大学に通い、夕方から夜中まで書店でアルバイト。夜中からラーメン屋へ行き、その後は、ゲーセン、カラオケで朝まで遊ぶ。そんな日々だった。


 大学3年生になる頃、進路が分かれ、バイト先も変わって、いつも一緒だった4人の友人たちとも、疎遠になりつつあったが、自然とラーメン屋に足が向き、店でバッタリ会うこともしばしばあった。



 そんなとき、”アレ”が起きた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る