異常図書140A-2-16[僕が感謝したい人]

分類:人格版画

人気推定値:計測不能

状況:掲載物・原稿の焼却 制作者行方不明

発見時の脅威:洗脳/赤 中度の行動強制 強い感染力

現在の脅威:洗脳/黄 中度の再制作の危険


作品の概要

 2010年2月に██村立██小学校で行われた2分の1成人式で発表された作文。400字詰め原稿用紙1枚半で同村在住の████氏(74歳男性)に感謝と賞賛を述べる文章になっている。

 最初の1枚には同学校に在籍する第4学年男子生徒の名前が書かれているが、同名の男子生徒は同年1月、屋根から滑り落ちた雪塊の直撃を受けて意識不明のまま入院しており、作文を書いていない。

 ただし、男子生徒と████氏には親交があり、作文は事実に即して書かれているため、まったく無関係とも考えにくい。


異常の発現

 異常図書140A-2-16を直接読むと、████氏が非常に好ましい人物であるように思われ、この事実を多くの人と共有すると共に、████氏を国会議員として送り出したいという欲求に駆られる。

 また、異常図書140A-2-16の内容を音声化したものを半径20メートル以内で聞くと、それが素晴らしい作品であるように思われ、自分の目で読んでみたいという欲求に駆られる。


発見と対応

 ██村に里帰りしていた職員が、異常図書140A-2-16のコピーを大量に投げながら████氏の選挙出馬を応援しようと呼びかける村民の集団を目撃し、異常図書事件の可能性を疑って通報。

 村民の観察から上記の異常性を確認。回収と焼却を行った。

 異常図書140A-2-16の影響は、異常図書140A-2-16との接触を断てば24〜72時間以内に消失するようである。

 この時、記憶を強化しようとして暗誦を試みる場合があるので、猿轡を噛ませる、眠らせるなどして声を出せないようにする必要がある。

 不明瞭な発声、意識内での暗誦には、異常性を強化する作用は見られない。


異常発現の原因

 直接の確認が危険だったためシャター法で検査したところ、8個の未確認記号(以後、特異記号140A-2-16-1〜8)が含まれていることがわかった。

 異常図書140A-2-16から特異記号140A-2-16のうち、1つでも削除すると異常性を喪失することから、これが異常発現の原因と見られる。

 危険なため、特異記号のみでの実験は行っていない。


特異記号140A-2-16

 三角形を組み合わせた形の記号。〈〉内は特異記号の読みと思われるもの。

・140A-2-16-1

 大きな正三角形の右側に、小さな下向きの正三角形を、やや離して置いたもの。

「僕は〈ポサ〉なのかなぁと思うことがよくありました」

 両親が忙しくて放置されがちという文章の後に記述されていることから、いらない子に近いものを意味する可能性が高い


・140A-2-16-2

 両端が下がるようにやや角度を付けて扁平な二等辺三角形を並べ、その下、2つの三角形の接点に、正三角形を置いたもの。

「自信が持てない僕に、██さん(████氏のあだ名)は〈グンヌ〉を示してくれました」

 異常図書140A-2-16の影響下にある村民の言葉から推測するに、生き様、人生の指針のようなものを意味する可能性が高い。


・140A-2-16-3

 底辺を下にして正三角形を4つ、四角く配置し、その上に正三角形を2つ、底辺を上にして配置したもの。全ての三角形は頂点と頂点、または頂点と底辺が接する。

「██さんは〈ネヅィヤ(ネジヤ?)〉にも負けない、とても強い人です」

 意味不明。異常図書140A-2-16の影響下にある村民も触れようとしない。忌み言葉か? 「〈ネヅィヤ〉にも負けない」とあることから、何らかの敵、苦難を指しているものと思われる。


・140A-2-16-4

 大きな正三角形を90度右に回転し、それと向かい合うように扁平な二等辺三角形を2つ配置したもの。二等辺三角形は底辺と頂点が接する。

「将来、僕も██さんのような〈ガッダ〉になりたいと思います」

 内容と、140A-2-16-3の直後に記述されていることから、強者を意味する可能性が高い。しかし、上の項目で「強い人」が使われているため、多少色合いが異なるものであると思われる。


・140A-2-16-5

 大きな正三角形を、右側の小さな正三角形に寄りかかっているような角度で配置したもの。大きな正三角形の辺と、小さな正三角形の頂点が接する。

「大きくなったら、たくさん〈チョムチャ〉したいと思います」

 感謝の言葉の後に書かれていることから、恩返しのようなものを意味する可能性が高い。


・140A-2-16-6

 扁平な大きい二等辺三角形の上に、鋭角な小さい二等辺三角形を配置したもの。頂点と底辺が接する。

「██さんが僕は〈ザバーザ〉になれると言ってくれたことは、とても大きな心の支えになっています」

 前後の文章から考えて、立派な人物のようなものを意味する可能性が高い。


・140A-2-16-7

 鋭角の直角三角形を縦長になるよう横に3つ並べ、それらを1つの大きな正三角形で囲ったもの。全ての三角形は接触しない。

「僕は██さんが〈ガサゴム〉として立ち上がってくれたら良いのになと思います」

 異常図書140A-2-16が引き起こす事象から考えて、政治家、王を意味する可能性が高い。


・140A-2-16-8

 扁平な二等辺三角形を8つ、底辺が、八角形を作るように配置したもの。

 末尾に孤立しており、読まれもせず、言及もされないため、何もわからない。しかし、削除すると異常性を喪失するため、特異記号であることは間違いない。


現状

 拡散分の封じ込めには成功したので、再制作の危険を低減するため、制作者を捜索中。

 作文を回収した学級担任は、2月█日に学級分を回収した後、少し遅れて入院している男子生徒本人から直接受け取ったと話しており、この時初めて矛盾に気付いて混乱していた。

 仮に学級担任の記憶が正しいとすれば、入院中の男子生徒そっくりの何者かが異常図書140A-2-16を持ち込んだことになる。しかし、学校周辺で男子生徒を目撃したという報告はなく、学校の防犯カメラにもそれらしい人物の姿は確認できなかった。

 学級担任の記憶が改ざんされているとすれば、人魚姫シナリオで生成された疑いが強まる。

 いずれにせよ、異常図書140A-2-16は超常存在によってもたらされた可能性がある。


 異常図書140A-2-16によって利益を得る可能性があった████氏に、異常性を削除した作文を見せたところ「██(男子生徒の名前)に褒められたのは嬉しいが、自分は大した学も無いし国会議員など柄じゃない」と消極的であり、事情聴取に紛れ込ませる形で心理検査も試みたが、異常図書の制作を疑わせるものは得られなかった。

 ただ一点、████氏の自宅には石を並べて構築した祠があり、これについて質問したところ「曽祖父の代、あるいはもっと前から神様を祀っている」との回答を得た。

 男子生徒も████氏にならう形で、この祠に関わっており、[霊界接触]を発生させた可能性がある。あるいは、礼拝の作法が魔術的な作用を持っているのかもしれない。


 ██村周辺に同様の信仰が残存していた場合、地域全体が[霊界接触]の危険をはらんでいる恐れがある。周辺地域の調査を準備中。


付記

 異常図書140A-2-16の封じ込めを行った直後、これを実行した職員が、カラス等の鳥類による襲撃や、鉤型のフックが絡む事故で負傷する事象が立て続けに7件発生した。

 この7件の事象と異常図書140A-2-16との関連は明確ではないが、今後の調査には注意を要する。

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