異常図書焼却課アーカイブ

稲生葵

異常図書焼却課の理念

 生物には恒常性がある。

 体温、血圧が保持され、傷が修復されるように、生物の体は、精神の状態や思想も保持、修復するように機能している。

 物語には、これを突き抜けて人間や世界を変革する力など無い。

 とても良い物語に感服し、とても感動的な物語に心を動かされたとしても、一晩寝たら概ね元通りになっているのが人間というものである。

 もし、変革が起きたように見えたとしたら、それは既に人々の願いとして存在していたのだ。物語が作り出したり植え付けたりしたのではない。物語は単純に、既にあるものに乗っかったか、目的地への道を尋ねられて答えただけだ。

 しかし、我々が異常図書として扱うものは、そうではない。それはまるで、魔術のように、世界に過激な改変を加えてしまう。


 どう考えても筆者には書けない情報が書かれたもの。

 書かれている内容の人物や怪物、環境を呼び出すもの。

 まるで電子ファイルのように人格や思想、記憶を上書きするもの。

 

 我々、異常図書焼却課は、これら異常図書を社会から駆逐し、印刷物に少し目を通しただけで頭を噛みちぎられたり、聞くに堪えない歌詞を往来で叫んで破滅したりするようなことのない、安心して図書に触れられる社会の構築を目的として、発足した。

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