第91話
「あ、はじめまして。僕はコルスって言います、一応勇者やらしてもらってます。まだ駆け出しですけど、いつか魔王倒したいっす!よろしくお願いします」
とりあえず挨拶してみた。
「………おぬしは何だ?空気を読む能力がゼロなのかえ?」
「やーい、言われてやんの、ばーかばーか」
「ちょっ、酷いよイジッテちゃん!」
「いや、そっちの幼子も大概やえ!?人の事言えんえ!?」
「やーい、言われてやんの。やーいやーい」
「うるさいぞコルス!バカのくせに!ばーかばーか!」
「そっちこそうるさいですー、やーいやーい」
「黙らんかえ!!」
魔族さんがなんか謎の黒い塊を飛ばしてきた。
イジッテちゃんでガード!重っっ…!!
「ふんぬっ!!」
なんとか黒い塊を後方に逸らすように投げ飛ばすと、結構な爆発と共に地面がえぐれた。
「あぶなっ……良かった、うっかり教会の建物に向けて投げなくて良かった…」
なるほど魔族……これが魔族か。怖いもんだな。
「本当になんなのだおぬしら……わっちの攻撃を防ぐし弾くし空気は読めぬし……ジュラルの勇者と言うのはみんなこんな奴らなのかえ?」
僕らでは話が通じないと思ったのか、オーサさんとタニーさんに話を振る魔族の……なんだっけ、そう、サジャ。
だが、そんなサジャに対して二人の反応は当然そっけない。
「わるいが、俺たちもあんたと会話をする気はないよ」
「そうだな……フォズのやつの仇もとってやらねぇとだしな」
二人も怒っているのだ。
戦って、分かり合えそうだと希望を感じた相手を目の前であっさり殺されたからなのか、最後は魔族の力に頼ってしまったとはいえ長年努力を重ねていた格闘家を侮辱されたのが気に入らないのか……おそらく両方だろう。
「ふむぅ、ここにはどうやら頭の悪いやつしか居らぬらしい。魔族がどれだけ圧倒的な力を持っているのか……知らんと見える」
「あんたこそ話を聞いてなかったのか?そういう相手にも勝てるように俺たちは鍛えてるんだぜ」
「ま、そういうことだ。いっちょ相手してもらおうか。魔族ってのがどんなもんなのか、教えてくれよ」
再び戦闘態勢に入るオーサさんとタニーさん。
―――――止めなければ、と思った。
さっきくらった一撃、あれはイジッテちゃんが居たから耐えられただけで、直接くらったら人間が耐えられるものではない。
そのうえで二人は、さっきの流れで今は防具すらつけていない。
その状況で戦うのはあまりにも無謀で、止めなければきっと大変なことに―――
「ふたりとも、ちょっとまっ…」
僕がそう声を出した時には、もう遅かった。
何がどうなったのかわからない、いや、見えなかったわけではない。
サジャが凄まじいスピードで移動して、キックをしたのだ。
ローキック……ミドルキックだろうか、とにかく低い位置で足を蹴り上げた。
すると次の瞬間には―――――タニーさんの右足が、宙に舞っていた。
「ぐあぁぁぁぁぁああ!!!」
タニーさんの悲鳴がこだまする。
何だ今のは!?ただ軽く蹴っただけ、それだけにしか見えなかった。
なのに、タニーさんの右足の膝から下が吹っ飛んだのだ。
何をどうしたらそんなことになるんだよ…!?
「イジッテちゃん!!」
「ああ、行くぞ!」
僕は慌てて、自分に素早さを上げる風魔法をかけた。
以前ミューさんにかけてもらった物と同じだが、自分の魔法力ではあれほどのスピードアップは見込めない。それでもしないよりはマシ!
「タニー!!」
オーサさんがタニーさんに駆け寄ろうとしたその時、もうサジャは背後に回っていた。
「おぬしはどこを無くしたいかえ?」
そう言うと、軽く飛び上がり、その足がオーサさんの首に――――
「ぬりゃ!!」
僕は飛び込むように、脚と首の間にイジッテちゃんを差し入れる!
その小さい体のどこにそんなパワーがあるのかあまりに不可解だが、その蹴りの圧倒的な威力に、僕はオーサさんごと吹っ飛ばされる。
「いってぇ!……オーサさん、大丈夫ですか!?」
吹っ飛ばされた先ですぐさまオーサさんの首を確認。
良かった!ちゃんと首は繋がってる!
「ぐっ……す、すまない。助けられたな…!」
オーサさんのダメージはそれなりにありそうだけど、命にかかわるようなことは無さそうだ。
「これを」
ポーションを渡す。
「結構奮発して買った良いヤツですからね!後でお金払ってもらいますよ!」
「感謝する!」
オーサさんは素早くポーションを飲んで回復すると、タニーさんに駆け寄り、片足を失ったタニーさんと、吹き飛んだ右足を持って教会の中まで担いで運び込む。
教会の中には持ってきた荷物があり、治療する道具も入ってる。
さすがに足を繋げることは出来ないだろうけど、氷で保存しておけば後で医者に繋げてもらえる可能性もわずかながら残る。
とにかく今は足を治療して血を止めること、ちぎれた脚を冷やすこと。
それを瞬時に理解したからこそ、オーサさんは教会の中に戻ったのだ。
その間も僕はずっとサジャを警戒していたが、どうにも動く様子は無い。
余裕を持って僕らを眺めていた。
にゃろう、いつでも殺せるってか?
そういうのは負けるヤツのやることなんだよ……!
と言いつつ、勝てる気しないけど!どうすりゃいいんだ魔族相手に戦うなんて。
確か以前何かの本で読んだ記憶では、遥か昔に一人の魔族が3つの国を滅ぼしたという記録が残っているらしい。
当時の勇者がそれを撃ち滅ぼしたらしいけど……その勇者はそのまま魔王も倒したのだとか。
……待てよ?そう考えたら、こいつ中ボスだな?
大ボスの魔王の前に居る中ボスだな?
なんか勝てそうな気がしてきた!
「よし!やるよイジッテちゃん!」
「なんで急にやる気出した!?いやまあやるけど!やるしか無いし!」
さあて覚悟は決まった、じゃあどうする?
少なくともパワーでは負けている、素早さは魔法で強化してもちょっと負けている、防御力はイジッテちゃんのおかけでたぶん勝ってる、でも総合力ではボロ負けだ。
……だからどうした!
やるったらやる!!今ここで戦えるのは僕しか居ないんだから!
「魔族の人!!えーと、サジャさん!」
「なんだい?」
見てろ、叩きつけてやる!宣戦布告だ!
僕の覚悟とやる気を言葉に変えて、さあ行くぜ!
大きく息を吸い込んで、全ての想いを解き放て!!
「なんとか戦わずに済ませるわけにはいきませんかね!!!!!」
「おい!!!!やる気どこ行った!?消えるの早すぎないか!?」
イジッテちゃんがビックリしておられる。
「大丈夫イジッテちゃん!僕もビックリしてるよ!」
「何言ってんだお前!?大丈夫か!?」
「いやその、別にやる気も覚悟も消えたわけじゃないけど、でも戦わないで済むならその方が良い!って急に思ったから!」
「そりゃまあそうだけども!」
「おほほほ、変なヤツであるなぁ。だが、闘わずに済ませる方法も無くは無いぞ?」
「ホントですか!?それはいったい!?」
「簡単よ、ただ黙って皆殺しにされる、それだけよ」
いやいやそれは困る。
「他には?」
「ない」
「そこを何とか!」
「命乞いなど無意味ぞえ?」
「命乞いじゃないです!!」
「………ん?命乞い……よな?」
「命乞いじゃないです!別に助けて欲しいって言ってるわけじゃないので!ただ、闘わずに済ませたいなぁって思ってるだけですから!」
「だから、それが命乞いであろう?」
「何言ってるんですか!これは命乞いじゃないですよ!」
「すまんな、言ってる意味がちょっと……命乞いじゃないなら、なんなのかえ?」
「そうですねぇ……しいて言うなら、時間稼ぎ、ですかね?」
「なに…?」
その刹那、僕はポーチから煙幕弾を取り出して投げる!
すぐさま辺りは煙幕に包まれて、完全に視界を奪われる。
良かった!今日無風で!
「お前、最初からこれを狙ってたのか?」
イジッテちゃんの問いに、僕は素直に答える。
「全然、ただ、良いアイディアが浮かぶまでの時間が欲しかっただけです。コガイソの街で色々アイテム買い込んで使ってないものとかまだ結構あったので、それらをどう使うのが一番効果的かなーって」
ようやく思いついたので、行動に移したわけです。
さてと、煙幕の中に、とあるアイテムを設置する。
これは、「足音くん3号」なにが3号なのかは知らないけど、自動で足音を鳴らす機能がある。足音は近づいたり遠のいたりを繰り返し、相手に居場所を悟られにくくするアイテムだ。
これは煙幕とセット、もしくは暗闇で使うことで逃げる時間を稼ぐのに使うのが一般的な使い方となっている。
あの丸男の研究所への準備として、いざと言う時には安全に逃げられるようにと用意したけど使わずに済んだモノだ。
そこへさらに、熱感知グラス!暗闇や霧の中でも温度を検知して相手の動きを見られるという魔法がかけられている。
それを利用して、僕は安全に少し距離をとる。
すると、足音くん3号を設置した場所にサジャが近づいていくのが見えたので、風魔法を利用して大ジャンプ!!
足音くんに気を取られているサジャの真上から、一気に落下しながら剣を振り下ろす!!!
手応え……手応えが……ない!!
「残念でしたえ♪」
脳天に真っ直ぐ振り下ろしたはずの剣は、その直前で止まっていた。
―――――髪だ、あの不気味に動いて居た髪が、僕の剣に絡まってその動きを止めていたのだ。
「見てわかっていたであろう?ただの髪で有るはずがないことくらい…?」
そりゃ変だとは思ったけど、まさか剣を受け止められるとは思わないじゃんかよ!!
髪は剣ごと僕の身体を振り上げると、そのまま振り回す!
「ぐっ!」
それにより巻き起こる風で、あっという間に煙は晴れて視界がクリアになってしまった。
あまりにも振り回されるので、遠心力で手が滑り剣を手放してしまうと、そのまま僕は吹き飛ばされ、地面を転がり、教会の外壁にぶつかってようやく止まった。
「さあ、次はどんな手を使ってくるのかえ?」
言いながらこちらを向いたサジャ、その髪は――――僕の剣を、バリバリと食べていた。
待て待てわからん、髪が剣を食う?どういうことだ!?
でも、そうとしか説明できないのだ。髪が口のような形になり、そこでバリバリと噛み砕かれていくのを、成すすべなく見守るしか無かった。
「おお、すまん。この髪は悪食で、何でも食べてしまうのよ。まずくて食えたもんでは無いと言うのになぁ、鉄も――――人間も」
口の端が耳まで伸びているかのような邪悪な笑み。
武器も失って、こんな相手とどう戦えばいいんだ――――…!
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